

その女は徐々にその正体を現し始めて行く・・・
舞台中央、黒いドレスでその身を包み、シックではあるが優雅にイスに
座り、夜霧に包まれているような、ファジーでアンニュイな雰囲気の中、
甘い香りを立ててその女は、客席のイスの上、はたまた壁やバーにもたれ
ながら、無防備に見つめる男達の心の隙間に、水が染み込んで行くように、じわりじわりと女の体温を伝えて来るのだった。
フチの広い上品な帽子から見えるのは、つるりとした細い頬のラインと、
形の良いくちびるだけ、眼は見えない。そんな女は口元だけに薄く笑みを
浮かべている。真っ赤なルージュの色とは裏腹に、とても冷たそうな唇に
見える。
あなたは誘われるまま、そのくちびるにそっと口づけをするのですか !?
おやめなさい ! 悪い事は言わない ! あの女は、彼女は・・・
「魔性の女」あの美しさはこの世のものではないんです。
ひとたび彼女の魔性にひかれると、口付けをすると・・・
背筋を吹き抜けるブリザードに、身も心も凍り付き、幾千年の眠りに
つく事になる・・・ かも知れませんよ。
覚悟は出来ているんですね ? (-_-; フフフ・・・


たった今、目の当たりにしているステージのイスの上では、幻想的な世界
が広がっている。渡辺理緒はイスの上で背筋をのけぞらせ、帽子を押さえ
ながらシルクの感触をほのめかす長い足を伸ばし、ひざを交互に折り曲げ、
目に見えぬぼんやりとした夜霧をゆっくりとかき混ぜる。そして・・・