屋根裏談話室

#10 1996年 浅草ロック座の夏、再び(前編)

おととし1994年の秋、山梨県石和で生まれて初めてストリップを見た。去年1995年8月の夏、自主的に浅草ロック座へ行って2度目のストリップショーを見て世界観が変わった。そして今年1996年8月夏休みが始まり、3度目のストリップショーを見に行こうと計画を立てていた。

JR中央線で神田へ行き、都営地下鉄銀座線に乗り換えて終点浅草駅で下車。雷門方面への階段を上り、雷門をくぐり、仲見世を抜けて浅草寺を参拝しておみくじを引き、左の方へ歩いて行くとにぎやかな通りに出るので、そこを右へ歩いて行くと浅草ロック座はある。

と、去年の復習をしてイメージトレーニングを行い、今年は完璧だと最寄りの駅へ向かった。電車に揺られながら久しぶりにまた雅麗華さんの素敵なショーが見られる。蘭錦さんのあの色っぽい艶やかなショーが見られると、それはもう心の中で私はワクワクが止まらない。

浅草駅へ到着して自分でも驚くような速さで浅草寺まで来た。そして参拝の後、恒例のおみくじを引く。恒例のと言っても去年ここに初めて来たので恒例のと書くにはまだ早いかもしれないが、私の中ではすでにそのような気持ちになっていた。ともあれおみくじの結果は・・・「大凶」マジか。

自分にとって不都合なおみくじの結果は見なかった事にしようと、C調な私は浅草ロック座へと急ぐ。そして去年と同様に食堂へ入ってカレーライスを食べて腹ごしらえをした。去年のように何も知らないで来たわけではないから、心にも時間にも余裕があった。なのでコーラが飲みたくなり、浅草ロック座前の道を挟んだ向かい側に自販機を見つけ、その自販機でコーラを買い、しばし休憩しようと道端で缶コーラを飲み始めた。

さてさて、今日はどのようなショーが見られるのかなと期待に胸を膨らませつつ、一人缶コーラを飲んでいたのだが、何か変だ。誰かに見られているような気がしてさりげなく周囲を見回すと、何かヘンなヤツが私の事をじっと見ていた。なんだアイツは? 髪はドリフのコントで爆発した後のようなヨレヨレな髪、顔も半年くらい風呂に入ってないような真っ黒な顔をして、着ている服もボロボロでゾンビみたいになっているし、足元を見れば何と! 裸足ではないか!

私は缶コーラを片手に持ったまま人物観察。すると突然そのヘンな男は、私に向かって突進して来るではないか! な、なんだ! あまりにも突然ヘンな男が私めがけて走って来たので恐怖を覚え、持っていた缶コーラを落としてしまった。足元に鈍い音を立てて落ちる缶コーラは地面にはねて、飲み口から泡を吹き一度はずんだ後、横倒しになって地面に転がった。すると私に向かって走って来るヘンな男は、私を見る事もなく一目散に缶コーラに駆け寄りそれを拾い上げた。

そこまでのシーンが私にはスローモーション映像を見ているかのように見えた。缶コーラは3分の1程飲んであったと思ったが、私の落とした缶コーラをヘンな男は拾い上げて、ゴクゴクと飲み始めた。あっけにとられる私。ヘンな男は私の飲み残した缶コーラを一気にうまそうに全部飲み干した。何で・・・

一言ぐらい何か私に言うかと思って見ていると、缶コーラを飲み干した後、何事も無かったように近くのビルの日陰に入り、その場で路上で寝ころんだ。この野郎、人が買った缶コーラを勝手に飲みやがって、ありがとうの一言もなく知らん顔かよ! ふざけやがって!

さすがの私も頭に来た。どうしてくれようか。私はすぐそこに交番があったので、交番に行って今目の前で起きた事件についてカクカクしかじかだと交番にいたおまわりさんに説明した。すると交番のおまわりさんは「またアイツか、しょうがねぇヤツだな。」と言ったので「また? またって事は何度もやってる? 」とおまわりさんに聞くと、おまわりさんが言うにはこう言う事だそうな。

あの男はね、いつ頃からかな、この界隈に住み着いているホームレスで、誰かが何かを食べてたり飲んでいたりすると、そのおこぼれに預かって頂戴するんですよ。人を襲う、危害を与えるって訳じゃないんで逮捕するには至らず、ある意味放置しているんですが、何かあるたびに注意はしてる。浅草は人情の町なんで、あいつもアイツなりに事情があってホームレスになった訳で、問答無用で捕まえる訳にもいかず、見守るしかない。

で、被害を受けたのは缶コーラ一一本って事ですよね? すみませんが缶コーラの代金を本官がアイツの代わりに弁償いたしますので、どうか許してあげてくれませんか、厳しく注意して置きますので。と言っておまわりさんは私に100円玉一個を手渡した。ん・・・ これで納得して良いものだろうかと言う葛藤もあったのだが、缶コーラ一本の事で、事を荒立てるのもいかがなものかと思い、おまわりさんから100円玉を受け取り、一応示談が成立と言う事になった。

「すみませんね、納得のいかない部分はあると思いますが。おーい! お前、ちょっとこっちへ来い!」とあのホームレスだと言う男を交番に呼びつけたおまわりさんは、さんざん説教をした挙句に「ここの方が今回だけは許してやると言ってるから、ちゃんとお詫びしなさい!」と言って手で彼の頭を下げさせた。するとそのホームレスは「うぅ・・・」と言って反省する風もなく、またあのビルの影へ行って路面に寝ころんだ。

それで一応一件落着となった訳だが、私は「そうか、浅草寺のおみくじ、大凶と出たのはこの事だったのか。」と妙に納得した。

(2020.08.14)

#10 1996年 浅草ロック座の夏、再び(前編)
#11 1996年 浅草ロック座の夏、再び(中編)
#12 1996年 浅草ロック座の夏、再び(後編)
#13 ここまでの編集後記