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もずのわくわく劇場日記 No.163-5
2007年 4月 1日(日) 若松劇場
牧瀬茜&若林美保「MAW MAW(マウマウ)」
〜蝶と桜の物語〜 本編4 最終話
若林美保は静かに横たわった牧瀬茜を眠らせたまま、そっと立ち上がり、涙をこらえて物語を進める。言い知れぬ孤独とやり場の無い悲しみを抱きかかえ歩き出す。それは劇中で非業の死をとげた蝶・茜に捧げるレクイエムか。
最前の牧瀬茜と同様、せつなくいたたまれないベットとなる。
小さく見える景色は陽炎(かげろう)か
出逢いも別れも夕暮れにあずけたら
自分の影を捜しに西へ行く
いい日旅立ち
憧憬(あこがれ)は風の中
今も聞こえるあの日の
春を道連れに・・・
若林美保が美しく踊れば踊るほど、私の胸の痛みが深くなる。
若林美保は悲しいほどに美しい・・・
蝶々の茜が最初で最後の短い春を終え、桜の木は春の素晴らしさと、生きている事の喜びを茜に伝えた。桜の木にしてみれば数十回もの春を迎え、その喜びを蝶々の茜と分かち合えた今年の春は、きっとこれまでにない楽しい思い出になるはずだった事だろう。
だが、まさかこんな結末を迎えるなどとは思っても見なかった。
あんなにうれしそうに、楽しげにはしゃいでいた茜。
もっともっとたくさんの喜びを茜に教えてあげたかった。
だがもう茜はいない・・・
茜の事を春の嵐から守ってあげられなかった自分が、ふがいない。
ごめんよ、茜・・・ こんなママを許しておくれ・・・
執拗に自分を責める桜ママが茜へのレクイエムを踊っている時、涙でぼやけた視界の隅に、ちらりと光に包まれた真っ白な蝶の姿を見たような気がした。桜ママは涙を指でぬぐい、改めて良く見てみると、そこには茜が微笑みを浮かべ立っているではないか!
「あかね・・・ 茜なのね! 」
茜は微笑を浮かべたまま、何も言わずに桜ママの手をとって立ち上がらせる。桜ママもじっと茜の顔を見つめたまま手を引かれて立ち上がり、蝶々の茜と桜の木のママは、お互いをきつく抱きしめ合い、再び会えた事を喜び合うのだった。
「桜ママ、帰ってきたよ♪」
「この子ったら・・・」
桜ママはもう一度、茜をきつく抱きしめる。すると春の香りがした。
桜ママは花びらを散らしながら、茜がここにいる、確かにここにいる。
この子が私の命。
この子が私の宝。
幸せだ、茜がそばにいてくれる、それだけでいい。
また来年春が来ても、その次の春が来ても、茜のいない春なら何も無いのと同じだ。
「さぁ、桜ママ。行きましょう、私と一緒に。」
「茜? 行くって、どこへ・・・」
「桜ママが私に教えてくれた、光あふれる素敵な春が永遠に続く国へ。」
「永遠に続く春・・・ 」
ニッコリと笑いながら、茜はそう言った。
桜ママも微笑んでうなずいた。
茜は桜ママを抱きしめると、背中の羽を大きく広げ、羽ばたいた。
二人は天高く舞い上がる。
森を抜け、雲を抜け、やがて二人は薄紅色の光に包まれて流れ星となった。
長いしっぽを引きながら、どこまでもどこまでも宙(そら)高く飛んで行く。
蝶々・茜と、桜の木・桜ママの、永遠に続く「春」への旅の始まりだった。
春よ、遠き春よ。
瞼閉じればそこに、愛をくれし君のなつかしき声がする・・・
もし咲き誇る満開の桜並木の中で、なぜか一本だけ枯れている桜の木があったなら
その木が桜ママ・・・なのかも知れません。そしてもし、春の夜空に流れ星を見たなら
茜と桜ママのお話を思い出してあげて下さいね。
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