もずのわくわく裏劇場日記 No.***
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夜のとばりが降り、この町は闇夜の静寂に包まれていた。 客席で寝静まる人々・・・ その時すでに物語は始まっていた・・・ 不穏な雰囲気をかもし出すピアノの旋律が、時空を越えて流れ出す。 フランチェスコ、ミカエス、そして今は亡きリニア。 「薔薇の封印」をめぐる物語は、未だに終止符を打つ事無く、繰り返されるのである。 それは運命のリフレイン。 男と男、男と女、そして・・・ 何もかもを受け入れてなお、恋慕う女のひたむきな愛・悲しみ・頬を伝う涙。 薔薇の花びらは、血のしたたり落ちるがごとき、赤一色に染まった・・・ 暗闇となった場内、そしてステージの上。カミテの幕からスッ! と蒼い薔薇の花が、ステージに差し込む淡い光の中、浮かび上がる。 その蒼い薔薇の花は、白く細長い指に包まれている。胸騒ぎ、不穏な空気。 それはこれから始まるストーリーのプロローグ(序章)だったのだ。 その薔薇を包んだ指は、そのまま無遠慮にステージへ向けて突き出された。 一歩、一歩とステージに歩み出て、その姿を現したのは、紫の帽子を目深にかむり、両腕を広げ、四角に長く伸びた袖の紫コート風、そして黒いマントをひるがえした魔性の男・ミカエスだ!(実は渡辺理緒) ミステリアスに流れていたピアノの旋律が止まり、過去のいくつもの場面が、短くフラッシュバックされ、時代を迷走し、グルグル回る万華鏡のようなフレーズになる。 とその時! 突然もずのタンバリンが激しくシャキシャキ! と鳴り響いた! 場面は急展開! ステージの上では黒いマントを振り乱し、狂おしく踊り出す渡辺理緒! 紫のメタリックなバンパイア・コートのスソをヒザで蹴り 上げるようにして、スラックスの脚、黒いハーフブーツの 足先を伸びやかに振り上げて、鬼気迫る迫力でステージを 駆け巡る。 タンバリンを叩くもずの手が、はっ! として、一瞬止まり そうになる。全身に走る戦慄! 鳥肌の浮き出る両腕・・・ 目を大きく見開いたまま、気を失いそうになる。 こ、これは・・・ 渡辺理緒は方ヒザを折り、両腕を広げて大きくジャンプ! 着地するまもなくターンして体を切り返す! まさにつむじ 風かタイフーン! 頭の先からつま先に至るまで、発散され るオーラの輝き。 これまでに見た事も感じた事も無い、カミソリのような切 れ味、洗練され尽くしたセンスとイノベーション! 渡辺理緒の存在感を以って、天才と言わしめたイデアが、完全に確立された瞬間である! 目深にかむった帽子の両脇、耳からアゴにかけてのフェイスラインが、細くシャープになり、鋭さに磨きがかかっている。渡辺理緒の全身から繰り出す、ダンスの一挙手一投足が、たおやかな動きと言ったら良いのか、これまでに無い絶妙な風景を描写する。 ハイスピードなBGMに身をゆだねる事無く、渡辺理緒のサーキットダンスは、いかんなくそのイニシアチヴ(主導権)を発揮し、見る者の視線を捕らえて放さない。 とその時、渡辺理緒は背中に重く背負った十字架のマントを、振り返りざまに手で引きちぎるようにしてはずす。場面は次のステップへと変わりつつある。ハイキック! 顔にヒザが当る寸前までの、大きなアクション! 帽子を取り払い、パープルメタリックのバンパイア・コートを脱ぐと、上下セパレーツの衣装。それはシースルーのトップと、 ヒザ下からスソの広がるパンタロンパンツ。 お腹の辺りは、腹筋がうっすら見えるフィジカルボディー。 額に巻かれた黒く細いバンドには銀の装飾が施され、左右のこ めかみ辺りから、それぞれピンクレディーのウォンテッド風の 髪飾りが揺れている。 そうなった所で配役が変わる。 ここからはフランチェスコの登場! (実は渡辺理緒) 荒ぶる魂を封印する五輪の薔薇と、ミカエスを追って遙かな時 を越えて、フランチェスコはやって来たのだった。 この時代に降り立ったフランチェスコは、前の時代に起った 惨劇、最愛のリニアの事を回想し、雷鳴のとどろきに打たれた ような気がして目を覚ます。 ステージ中央、シモテに頭を向けて、うつ伏せに横たわって いる渡辺理緒。 足の先がピクリ! ピクリ! とわずかに動き、悪夢から未だに解き放たれず・・・ 最悪な目覚めだ。 けだるくムクリ! と体を起こし、この時代に降り立ち、フランチェスコ(渡辺理緒)が背負 った運命の大きさに、重いものを感じる。 フランチェスコ(渡辺理緒)は、一人苦しむ。 リニア・・・ あの可憐な君の微笑みは、今でもボクの胸の中に生きている。そしてボクは パンパイア一族と共に、再び荒振る魂を五輪の薔薇で封印する! ミカエスよ、どこにいるのだ! 姿を現せ! 渡辺理緒はゆっくりと立ち上がり身をのけぞらせ、長い髪を両手でかきむしり苦悩する。 フランチェスコの心理状態を余す事無く、表現している場面だ。 するとミカエスが配下の者を連れて現れる。そう、ミカエスは荒振る魂をその身に宿し、その力と権力を手に入れていた。フランチェスコとミカエスは、時代を超えて対面した。フランチェスコは孤軍奮戦、ミカエスに立ち向かう。 BGMは変わり、緊迫感あふれるものとなる。 ダダダダン! ダダダダン! 女性コーラスのスキャットが大変だ! これからミカエスとフランチェスコの戦いが始まるぞ! と騒ぎ立てているように聞こえる。 渡辺理緒の一人芝居が始まる。渡辺理緒はフランチェスコ方を演じる。 ミカエスが先に打って出る。負けずにフランチェスコも受けて立つ! 両者の激突! しかし、強大な力と権力をもったミカエスは、配下の者とフランチェスコを取り囲み、フランチェスコは両腕を取り押さえられるが、それでもなお胸を張って、ミカエスに向かって行こうとする。 ところが、フランチェスコは突き飛ばされ、花道へ倒れこむ。突き飛ばされてはしまったが、体は自由が利く。立ち上がったフランチェスコの反撃が始まった。フランチェスコ(渡辺理緒)は床をドンドン! と二回手で叩き、ミカエスを追い詰めるが、しかし、多勢に無勢・・・ 再び劣勢へと追い込まれる。フランチェスコの脳裏に、リニアの姿がよぎる。 いとしきリニア・・・ 渡辺理緒はカミテからシモテへと、歩く歩道に乗っているかのように、ス〜っと移動? いや、小刻みに足のつま先とカカトを使って、あたかもスライドしているようにして、水平移動しながら、眉をひそめ、無念の思いを描写しながら、両手の甲を客席側に向け、胸の前でクロスさせて踊っているのだ。動きとしては、バレリーナの踊りをイメージさせる場面である。しかし渡辺理緒が履いているのは、かなりカカトの高いハイヒールである。それを考えると、よくあんな事出来るよなぁーっ! と言うか、よくあんな振り付け考えるよなぁー! と関心させられる。 渡辺理緒の体が小刻みに揺れてる。それがまたものすごく悲しげで、胸が凍える・・・ そして戦いの結果は? フランチェスコはミカエスに負けてしまい、何でこ〜なるの?! と、 渡辺理緒は、ヒザ立ちで客席を振り返り、唖然とした表情をしたところで暗転・・・ 場面はベットへの導入となる。 フランチェスコとミカエスの、壮絶な戦いは終わり、誰れもいなくなったステージに、ストリングス(弦楽器)の悲壮感の漂うフレーズだけが流れて来る。 やや間を置いて一輪の真っ赤なバラの花を持った一人のオンナが、けだるそうに登場した。 黒いシースルーの合わせのロングナイトドレス、 襟元と足元までを黒い羽でゴージャスにあしらわ れたものだ。 そして靴は、エナメルの黒い色の ハイヒール。 このオンナは一体誰だ! ポーラスと言う。 彼女はこの時代に生まれ、タンゴダンサーとして フランチェスコの門下、直弟子としてフランチェ スコにレッスンしてもらっているうちに、フラン チェスコに恋心をいだき、以来、フランチェスコ の事を追いかけていた。 もちろんフランチェスコに、その燃える想いを告 白した事があるのだが、フランチェスコはポーラ スの想いをうれしく思いながらも、実は自分はバ ンパイア一族である事、ミカエスとの運命のジ・ ハードの事、亡きリニアへの想いを、正直にポー ラスに話した。 ポーラスは、そんなフランチェスコに言った。 「あなたがバンパイアでもいい! 戦うのなら、 私を連れていって!」と言った。 フランチェスコは自分の事を、そんなにまで想ってくれるポーラスに言った。 「君は普通の人生を、歩んで行かなくてはいけない。」と諭すように言って聞かせる。 自分と共に歩いて行くと言う事は、いつ果てるとも知れない、時を渡って行かなければならない運命を、背負ってしまった自分と、同じ苦しみをポーラスに与えてしまう。愛するが故に自分からポーラスを引き離すフランチェスコの孤独・・・ ポーラス(実は渡辺理緒)は、自分自身の想いを象徴する真っ赤なバラの花を、手に持って フランチェスコとミカエスの戦場へとやって 来た。 ところが戦いに敗れ、倒れているフランチェ スコの事を見て、深く落胆する。 渡辺理緒(ポーラス)は、その真っ赤な一輪の バラの花を、いとおしそうに口にくわえる。 涙ながらにステージで、悲しみの踊りを演じる。 花道を渡り、その真ん中辺りでくわえていたバラの花を手に取り、じっと見つめたあと、そのバラの花びらを一枚・・・ また一枚とむしって行く。その中の一枚の花びらをくちびるにあて、くわえたままベットステージは進んで行く。ホントに切ないパフォーマンスに、思わず客席からはすすり泣く声が・・・ ピアノのソロフレーズが悲しくドラマチックに流れ出し、それに重なるように、うなるギター のソロ。 いよいよステージはクライマックスを迎える。 真っ赤な照明が、一人盆の上に座り込む渡辺理緒を、際立たせる。 その中で渡辺理緒はポーズを次々と繰り出し、そのポーズ の美しさたるや、あたかも絵画の美術品である。 フランチェスコよ、あなたがバンパイアならば私の血を 吸い、私をあなたと同じバンパイアにして欲しい。 そして私は永遠の命を授けられ、永遠にあなたと二人、 愛し合い、そしてあなたと二人で戦うわ。 おぉ、フランチェスコよ、それなのにどうして私を残し、 あなたは一人去って行くの・・・ Lady Want you say me〜♪ BGM とあいまって、そのクライマックスのベットショーは まさに歌うような、ドラマチックなベットシーンと言える。 ![]() 私はこらえきれなくなった涙を 指でぬぐいながら ステージに戻って行く 渡辺理緒の後姿を ぼやける視界のなかで見送った。 ステージにたどり着いた渡辺理緒は 客席を振り向き、ラストポーズ そのまま照明が消された・・・ |