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もずのわくわく劇場日記 No.144-1
2005年 7月 22日 蝋人形の館劇場(爆♪) 神崎雪乃 編 [どないしたん?・もず涙のタンバリンの巻] 前編
まわりを囲むようにして田んぼの広がるその中に、ぽつんと広い駐車場を抱えた劇場がある。 私が車を飛ばしながらたどり着いた時には、二回目のトリのおねぇさんが踊っている最中。 「やっぱ、二回目には間に合わなかったかぁ・・・」 平日の昼間だと言うのに、渋滞していた市街地を恨めしく思う。 ここでいつもなら助手席にあるカバンを手に取り、劇場入り口へと向かうところなのだが、今日は手ぶらのまま劇場入り口へと歩いて行く。実に身軽なもんだが、心は逆に重かった。 応援隊の商売道具の「タンバリン」を持って来ていないと言うのが、何となく気持ちを重くしているのである。せっかく神崎雪乃ちゃんが来ているのに、タンバリンはおろか、手拍子も拍手も出来ないと言う、最悪な事態である。 そもそも何でこんな事になってしまったのかと言えば、先日の道後遠征から帰宅して間もなく、仕事中にコケが生えている上で足を滑らせ、何の予告も無く仰向けに転倒し、無意識のうちに左手を地面に着いたのだが、自分の体重を左手一本で支える事が出来ずに、負傷してしまったのだ。仕事中であるから、立派な労働災害なのである。 その辺りをもう少し詳しく解説すると、雨上がりの朝、遠征から帰ったばかりの私は、仕事の荷物の運搬作業をしていたのだが、毎度夜更かしな私は朝に弱い。体は動いていても、脳みそが10時過ぎないと働かないのである。運悪く、その日は明け方まで雨が降っており、仕事場に到着する頃になって雨があがったばかりであった。 しかもさらに運の悪い事に、仕事場の通路にはコケが生えていたのを、私は知らなかったのだ。そして、荷物の運搬作業が始まり、何度目かその通路を往復したその時! 目の前に青く澄み渡った大きな空が広がっていた。 ドサッ! なぜ私は地面に寝転がっているのだ? うぅ・・・ 左腕と腰に奇妙な痛みが走り、私はとっさに飛び起きた。う、腕が泥で真っ黒け! 尻が泥で真っ黒け! そうか、自分は滑って転んだのか。やばい! こんな所を誰かに見られてはいないだろうかと、周囲を見回すまでもなく、お客さんが目の前に立っていた。 「あのさぁ、そこ、すべるから気をつけてね。」 お客さんのその言動は、冷静かつ、客観的な声で私の耳に聞こえて来た。せっかく私に注意を促すのなら、もっと早く言って欲しかった。すでに手遅れである。と、私はそんな冷静な事を言っていられる状況にはなかった。左腕に激痛が走り、ぎゃぁ〜っ! と叫びたいけど、目の前にはお客が立っている。私は尻の泥を手で払う素振りをしながら、まるで何事もなかったかのように、落ち着いた振りをしてその場を立ち去り、物影に身を隠してうずくまった。 時間が経つにつれ、次第に腕が腫れ上がって来た。こ、これはきっと腕を骨折したのに違いない! 正直言って手を押さえているだけで、何も出来ない。仕事どころではない。しかし、仕事を放り出して帰る訳にも行かず、その日の仕事を、悶絶しながら終わらせたのだった。 終わらせたのはいいが、このトラックに乗ってどうやって家へ帰ればいいのだろう? マニュアルミッション五速の車である。ここは東村山市、自宅まで小一時間は掛かる。この痛くて何も出来ない左腕で、どうやってギアチェンジをしたらいいんだ? 私はフレキシブルに考えを巡らし、左手が使えないなら、右手を使えばいいと言う結論を導き出した。しかしだ、ローギアーから入れていたのでは、ギアチェンジの回数が多くなりすぎる。かと言って、トップギアーからでは走り出せない・・・ うん、サードギアを使おう♪ 右手でサードギアを入れ、半クラッチを長めに使いながら車を一時間も走らせ、やっとの思いで帰宅したのだった。もう激痛でたまらないのだが、医者は閉店してるし、氷をビニール袋に入れ、痛むと言う感覚がなくなるまで冷やして、翌日になってやっと医者へ行き、診療を受ける事が出来たのだった。 レントゲンを撮ってもらったが、眼に見える骨折は無いようだが、レントゲンにも写らないくらいのヒビがあるかも知れないから、手首に添え木をして、湿布して置けばそのうち治るだろうと言う診断だった。 まぁ骨折はしていないと言う事なので、腕の捻挫みたいなものかと安心した。でも左手首が痛い事 には何も変わらない。 さて、そんないきさつがあって、幸いな事に負傷 したのが左手だから、仕事は出来ないけど、遊ぶ 事、マイカーに乗るのは、さほど問題は無い。 オートマだしね。だから平日の昼間に観劇に行っ たと言うわけだ。 劇場へ入り、場内へ潜入したのが二回目のトリの 人が羽ばたいているので間もなくフィナーレに なる。 雪乃ちゃんに会うのは、五月以来かぁ〜♪ と客席でフィナーレになって、雪乃ちゃんが出て来るのを待つ。 しかし、この私のありさまを見たら何と言うだろ? まぁしょうがない、こんななっちゃたんだし、応援隊 なのにタンバリンさえ叩いてあげられないのは、我慢してもらうしかないな。 そして二回目のフィナーレが始まった。 踊り子さんたちが一人ひとり、名前を呼ばれながらステージに登場して来る。雪乃ちゃんは三番目だ。うん、相変わらず長い髪がサラサラとしていてきれいだ。ステージから盆に上がり、一回りしてまたステージへ戻って行く。ステージの上で何気なく客席を見渡した雪乃ちゃんが、どうやら私の事を見つけたようだ。 目をこらして私の手の、白い包帯を見ている。私はフィナーレだと言うのに、手拍子も出来ずにステージを見ている。ステージではフィナーレが進み、トリの踊り子さんがマイクを握り、フィナーレのご挨拶を緊張しながら話している。 手拍子が鳴り、フィナーレはエンドとなり、幕がステージへ引かれた。そしてビール販売のコーナーのために、少しだけステージに引かれていた幕が開く。ビール販売の担当の踊り子さん二人が、その幕の間から出て来て飲み物を売り始める。 すると、雪乃ちゃんがスルリと幕のウラから出て来た。シモテ側で私に手招きをしているので、席を立ってそこへ行く。雪乃ちゃんはボソボソとした声で言う。 「もずさん、どないしたん? 」 「うん、仕事でスベッて転んだ。」 「折れてるん?」 「ぼきっ! っとな。って、折れてはいないねんけど、結構痛い。」 「ホンマ? 骨折せぇへんで、不幸中の幸いやねぇ。」 「捻挫みたいなもんちゃうかな。でもスジとか筋肉とかダメージあるみたいなの。」 「気をつけなアカンよ。」 「ありがとぅ。まぁ、添え木して固定してあるから、心配はないけどさ。」 「道後、どないやった?」 「そりゃぁ〜も〜、すごかったよ。ちあきもいいラストステージ踊ったし。」 「あたしも行きたかったなァ〜♪」 「そやね、雪乃ちゃんおったらもっと盛り上がっただろうね。」 「う〜ん、残念!」 「今日はせっかく応援に来たけど、タンバリンも手拍子も出来なくてさぁ。」 「しゃぁないやろ? 骨折せんかっただけでも、もうけもんや思わな。」 「すんまへんなぁ。(笑)」 と、手短に話して恒例の近況報告が終わった。 次回楽日の話へと続く・・・ |