屋根裏談話室、オーディオブック

「ストリップファンタジー劇場」

ストリップ。その知られざる世界

第一巻「アイドル看板スター踊り子 」

著者。もずさん

音楽と編集。ゆきみ企画

朗読はわたくし、わたなべゆきみでお届けいたします。
 

第一章、アイドル踊り子
 
 

彼女はアイドル踊り子として大ブレークしていた。
彼女のキラキラした微笑みと、ハツラツとした元気いっぱいのステージを見るために、大勢のお客さんたちが劇場に詰め寄せた。

「彼女、中々いいね。今週の「稼ぎがしら」は間違いなくあの子だな。あの子一人の人気で場内、満員御礼だ。」

劇場の社長も上機嫌。踊り子も劇場側も人気商売である。その週に人気のある踊り子が一人二人いれば、劇場は儲かるし、お客がお客を呼んで来るので宣伝広告の経費も抑える事が出来る。

その週に8人の踊り子が出演していたとしても、客入りに貢献できるのはその踊り子の中の二人くらいだ。もちろんそのほかの踊り子がお客を連れて来ない、劇場の売り上げには、あまり貢献しない。と言う訳ではないが、おおむね劇場の客入り、売上の過半数を占めるのはそのくらいの割合なのだ。世間では80たい20の法則などと言われるが、今週はそれを彼女が一人でまかなっていた。であるから、劇場の社長が上機嫌なのはがてんが行く。

私も劇場の客席に紛れ込んでいたので、彼女の人気がどれほど絶大なものか肌感覚で知っている。劇場内は常に満員で立ち見するすきまも無い。お客たちの熱気は場内ばかりではなく、ロビーにいたるまで、うずうずと渦を巻いていると私には思えた。

アイドル踊り子を演じる彼女は、他の踊り子についている「追っかけ客」をも、とりこにした。普通ならこう言う踊り子は、その週に共演している踊り子からは煙たがられるものなのだが、彼女は幸い性格も温厚であり、良く人の面倒も見るので、ねたみや、そねみ、しっとなどされる事も無く、むしろ「踊り子仲間」からも可愛がられたり慕われたりしている。

私が彼女の今、話題のステージを見ていてダンスショウが終わり、ポラロイドショウになった時にちょっとだけ話が出来た。

「すごい人気だね。お客さんたちあなたのホワイトパラソルで心臓をグサリと刺されて、ノックダウンですよ。」
あぁ、ホワイトパラソルと言うのは、彼女のステージでの、小道具である。

すると彼女は、私がポラロイドカメラを構えた先で、ポーズを取りながら言った。

「私の方がお客さんたちの熱い視線で心臓、グサリ!ですよ。ふふふ。」

照れ笑いをし、ポラロイドカメラから排出された写真のすみを指でつまんで、うちわを振るように顔をあおいだ。

今撮ったポラロイド写真が戻って来るのは、その回の「踊り子全員」が踊り終えて、「ぱちんこフィナーレショウ」の時である。「ぱちんこフィナーレ」と言うのは、その回の出演者ぜんいんが、「よこいちれつ」、いちどうにかいして、リラックスしながら行う、アンコールのような「フィナーレショウ」の事である。なぜその「フィナーレショウ」の時なのかと言うと、それぞれの踊り子が自分のステージを踊り終え、一旦お客が撮ったポラロイド写真をあずかって楽屋へ持ち帰り、それぞれのポラロイド写真の余白や裏側に、サインやプリクラ風のシールなど、しゅこうをこらしたデコレーションをしてから、「フィナーレショウ」の時に、どさくさにまぎれて客席のお客さんへ返却する。

お客が踊り子のポラロイド写真、通称「ポラ」をとるのはそう言った楽しみがあるからである。「ポラ」に踊り子からのサービスとしてデコレーションされると言っても、お客とその踊り子との関係性、親密度により、デコレーションの内容は様々である。

いわゆる「一見さん」には社交辞令的な内容、「常連さん」にはフランクなコメントや業務連絡てきな事を書く場合もある。それ以上親密な「追っかけさん」の場合は個人的な手紙や業務連絡、なま写真なども別途ポラ袋に同封される事もある。ポラ袋と言うのは複数枚のポラを撮った時などに、ジャストフィットするサイズのセルロイド製の透明な袋の事である。

フィナーレが始まった。それぞれの踊り子がそれぞれのお客にポラの返却を始めた。
そしてアイドル踊り子の彼女も私の所に来て、舞台越しに紙の封筒を差し出した。
彼女はそれを私に手渡しながら言った。

「今日で今週三回目の観劇だね。ありがとうございました。」
私は紙の封筒を受け取りながら言う。
「たった一人の踊り子目当てで、週三回も劇場に来たのは初めての事でした。」
すると彼女、めを細めて、ニッコリと笑いながら言う。
「あんまり私に入れ込むとヤケドするよ? ほどほどにね。」
私は彼女のキラキラとした夢見心地なステージを見られるなら、少しぐらいヤケドしても構わないと舞台袖へ消えて行く彼女の背中につぶやいた。

ストリップの世界では、特別な暦を用いる。ストリップで一週間と言った場合、一週間は10日間である。1日から10日までがアタマ、11日から20日までがナカ、21日から30日までをケツと呼ぶ。それゆえ踊り子たちは10日間踊って全国の別の劇場へ移動する仕組みである。彼女が私に「ほどほどに。」と言ったのは、その週10日間のうち、3日間も劇場へ来て朝から晩まで一日中劇場に張り付いていたからなのだ。

彼女が暗黙の了解として言いたいのは、ストリップを見るにはお金がかかる。あまり踊り子に入れ込むとお財布が空っぽになっちゃうよ。と言いたかったのだ。劇場までの交通費、入場料、食事代、差入れのしな代、ポラの購入代など。常連や追っかけを始めると、月に10万円くらいは出費する事になる。ましてや遠征などを始めると、とてもそんなもんじゃ済まないのだ。

ともあれ、彼女から返却された紙の封筒には、先ほどのポラ写真が入っているのは当たり前だが、ポラ袋ではなく紙の封筒と言う事は、もっと他にも何か入ってそうだ。
私はロビーのすみっこへ行ってその封筒を開けてみた。封筒の中身はポラの他に、プライベートな空間で撮ったと思われるなま写真と手紙が入っていた。

「今週は私のステージたくさん見てくれてありがとうございました。良い所悪い所、色々あったと思いますが、これからもまた、少しでも良いステージを踊れるように頑張ります。
追伸。

暗闇の中で猫の目が光るような視線をずっと感じていました。それがあなたです。舞台の上から客席を見ると、いつもそんな真剣な目で私のステージを見てくれたのですね。怖かったわ、うふふ。 またどこかの劇場でお会いできますように。」

私はかぐや姫の曲、「神田川」の一節を思い出した。
「ただ、あなたのやさしさが怖かった・・・」

第二章、再出演

前回公演の劇場ですっかり「アイドル看板スター」となった彼女が、三か月振りに前回と同じこの劇場での再出演が決まった。今回は7月の「七夕公演」になる。ストリップの常連さんをはじめ、潜在的なお客さんたちの間では「またあの時の「アイドル踊り子」が来演するぞ、楽しみだなぁ。」と話題沸騰、空前絶後の前評判が立っている。もちろん「前回公演」でのあの人気ぶりと評判の高さを思い返せば当然な事と言える。

「さてまたあの子にひと稼ぎしてもらおう。何しろあの子は今週ウチのアイドル看板スターだものな。大入り間違いなしだ。」と劇場の社長も大いに期待している。そういう噂話は当然彼女の耳にも届いているはずだ。その彼女はと言えば、デビューしてから三年目になる。ただし、彼女は毎週どこかのストリップ劇場でステージに立っている訳ではない。彼女のメインの仕事は「AV女優」である。スケジュール的に閑散期があると、その合間にストリップの踊り子としてステージに立つのだ。

踊り子としてのデビュー作品、前回の評判を呼んだ作品、そして今回期待の作品で「さんさくひんめ」となる。デビュー作品では新人踊り子。まぁちょっとカワイイ踊り子がデビューしたなと言ったくらいの評価だったそうな。しかし「にさくひんめ」となるステージはご承知の通りの大ブレーク。彼女目当てのお客で劇場は連日超満員となり「アイドル看板スター」の名を欲しいままにした。そして今回の再来演では初めから「看板スター踊り子」と言う立場で劇場の舞台に立つ事になる。

ここでちょっとストリップの踊り子が演ずるステージ作品、出し物について知っておこう。基本的に踊り子は自分が踊る演目は、自分で自由に創作した作品を踊る。自分で振付など考えられない場合には、ステージで踊る時に使う曲と、簡単なイメージなどを振付の先生に頼んでワンステージ分の作品を作ってもらう。

振付の先生は「先輩踊り子」であったり、専門の振付師だったりするが、高名な振付師の先生にレッスンと言う形で依頼すると、90分で5万円ほどのレッスン代がかかるそうだ。ただし、レッスンは「カメラ撮影OK」で、それをレッスン後にビデオで復習しながら覚えるそうだ。しかし90分でワンステージの振付を覚えられない踊り子はプロとは言えないと言われている。

ワンステージの「もちじかん」は20分前後、オープニングダンス、セカンドダンス、ベッドへのつなぎ、ベッドショウとそこからの立ち上がり。曲数で言うと通常、4曲から5曲で構成され、その時の状況により曲を編集して「もちじかん」に合わせると言うのが基本的なストリップのショー構成である。

さて、「アイドル看板踊り子」の彼女がいよいよステージに立つ。ショウが始まる前から観客たちは胸を「トキめかせて」興奮している。

暗転しているステージに耳をつんざく轟音と、照明による激しい稲光、彼女は気を失って倒れている所からショウは始まった。淡い照明の中、彼女は意識を取り戻したのかゆっくりと顔を上げ、体を起こした。

ショウのオープニングから、まるで演劇のようなスタンスで始まった彼女のステージを凝視していたお客たちは、ただただステージ上の彼女の様子を見守っている。出演順は4番目、「トリ」ではないが、まるで今日のラストショウのような濃い演目に、誰もが当惑している。彼女は黙々と演技を進めて行く。

大振袖のそこかしこにスパンコールが散りばめられた豪華な衣装、結い上げた髪に「カンザシ」を差し、重厚な演技と振付で踊る。少なくとも前回大ブレークしたアイドル踊り子のステージとは思えない異質な世界観である。俯瞰して考えてみるとその作品が七夕の週で、織姫の表現をしていると言う事が分かる。一年に一度、七月七日の「いちにち」だけ牽牛との逢瀬を許される二人の物語を演じていると理解するのに時間はかからなかった。

牽牛と会える喜びよりも、再び時が来れば離れ離れになる織姫の悲しみの心の方にスポットを宛ててストーリーを描いている深い読みが必要な作品である。それゆえベッドショウでの濃厚な交わりのシーンでは切なく狂おしいほどの愛の営みが胸にしみる。

ベッドショウで盆が回って来た時、彼女と目が合った。「びしょう」して「アイコンタクト」を送って来た事が私にも良く分かった。が、彼女の眼が何を私に伝えようとしていたのか、その時点では分からなかった。織姫と牽牛が織りなす愛の世界を客席から見守るしかなかった。ストーリー物と呼ばれる強いメッセージ性のある作品を彼女が今回演じているのには何か理由があるのであろうか。

彼女のショウが終わり、ざわつく客席。「とても良いショウだったが、ちょっとイメージが違うかな? 」、「彼女はアイドルから脱皮して本物の踊り子になった。」など、様々な言葉がそこかしこから聞こえて来た。アイドル看板踊り子と言う触れ込みで劇場に足を運んだ人たちからすれば、当てが外れた事は否めない。屈託のない笑顔に軽快なステップを踏み、それに合わせて誰もが手拍子をしながら楽しく盛り上がりたいと思っていたはずである。そう言うものが彼女の持ち味だと誰もが思っていたと思う。

それに彼女自身もその持ち味を生かした作品の方が、たくさんの人に受け入れられると言うのは知っている事と思う。その週、彼女を目当てに劇場へ足を運ぶお客は、前回と異なりだいぶ少なかった。むしろ彼女よりも新進気鋭のアイドル踊り子を目当てに、大勢のお客が詰めかける事になったのだった。

第三章、「アイドル看板スター踊り子」の事情

彼女のダンスショウが終わり、ポラタイムが始まった。

幾人目かのお客が撮影した後、私の番になった。
私は彼女の所へ行き、ポーズを指定しながら彼女の様子を伺う。カメラのファインダーを通して見た彼女は前回と同様、屈託のない満面の笑みでポーズをとっている。相変わらず可愛い「アイドル踊り子」以外の何者でもない。そこで手短に聞いてみた。

「さっき、ベッドショウの時に何か言いたそうな顔してたけど?」

すると彼女は大笑いしながら言った。「いい男がいるな。と、思ってさ。」

見事な切り替えしである。それゆえに何か意味深な気がした。
ポラショウの時は他のお客も見てるから、たとえ何か言いたかったとしても、その場でなんでも話すのは無理なのである。私は自分の席へ戻った。

彼女のポラの販売数は結構伸びており、「アイドル看板踊り子」にふさわしい売れ行きであった。

そしてフィナーレが始まると、先ほど撮ったポラを持って彼女が私の所にやって来た。
それと一緒に、また紙の封筒も渡された。それを受け取ると「フィナーレの終了」をまってロビーへ行った。

「ポラ写真」はともかく、紙の封筒の方が気になる。やはり手紙が入っている。

「お久しぶりです。お元気でしたか? もしかしたらあなたも今日の私のステージを見て戸惑ったかな?

あなたの眼から見た、率直な感想をお聞きしたいです。込み入った話は、あなたの感想を聞いてからお話しします。」

やはり彼女に何か起きている。込み入った話って何だろうか。

ともかく、「今日見た」彼女のステージの感想文を書かない事には、何も始まらないようである。
今日は、これで「一旦引き上げて」、家で落ち着いて感想文を書く事にする。

「ポラロイド写真」の中で、屈託のない「キラキラ」とした笑顔の向こうに、一体何が隠されているのだろうか。

【感想文】

劇場から帰宅後の深夜、私は今日見て来た彼女のステージ作品について率直な感想を便せんに書き記した。おおむね次のような事である。「ストオリイ物」の創作作品については、劇場の七夕公演と言う事なので、おそらく「織姫と牽牛のお話」をモチーフに創作された事は、ショウが進むにつれて確信を持った。しかし、その物語の中で、誰もが知っている「織姫と牽牛の話」だけではなく、きっと織姫の牽牛に対する、現実的な女心を描きたかったのではないかと感じた。なぜならば、ベッドショウを見ていれば良く分かる。

多分、普通にあの物語を表現したいなら、一年に一度だけれど、出会えた喜びにフォーカスして物語を展開する所だが、あなたがフォーカスしたのは織姫が牽牛と出会えた喜びではなく、また時が来れば牽牛と離れ離れになってしまう悲しさ、未練の方へ物語の焦点を向けていた。愛し合ってる二人ならば、このままずっと一緒にいつまでもいたいと願うだろう。現実はいつも残酷だ。何度再会出来たとしても、たった「いちにち」で引き裂かれる「さだめ」、である。

それならば、「いっそ」牽牛を殺して自分も死に、未来永劫、永遠の愛をと織姫は願う。しかし、そこに踏み込めない織姫の迷い、苦しみ。そう言う所を演じていたのではないかと私には思えた。「すとおりい」として、とても面白い切り口だと思った。

それにしても「アイドル看板踊り子」のあなたが、ガラリと趣を変えこの作品に挑んだ事には正直びっくりしましたよ。前回の「アイドル路線」のステージをやれば、お客も、劇場の社長も大喜びしただろうに。

今回のステージは「ベテラン踊り子」が演じるような、濃厚なステージだった。でも、それを分かっていて、あえてあの作品を「引っ提げて」登場したと言うのには、きっとあなたに思う所があって出して来たとしか私には思えません。

サクっと感想文をしたためるつもりだったのに、明け方までかかってしまった。
ともかく楽日までにこの感想文を届けなければ。

使命感のようなものを感じながら、私は仕事の都合を「無理やり」つけて楽日の劇場へ行き、彼女に感想文を届ける事が出来た。

踊り子にとって楽日と言うのは移動日であり、自分の「よんかいめ」のステージが終わった順、遠方の劇場に移動しなくてはならない踊り子から、劇場を去って行くので、「よんかいめ」の回にはフィナーレは無いか、もしくわ、「いのこって」いる踊り子だけでフィナーレをやるのである。こんな日に、たとへ感想文を彼女に渡したとしても、返信などあるはずもない。

ところが、終演後に彼女は、帰ろうとしている私を、ロビーで呼び止めた。

「すみません、時間が無くて。」

そう言って私に紙の封筒を手渡し「ありがとうね。」と手を振りながら楽屋へ戻って行った。
私は彼女と初めて同じ床の上で向き合ったが、私服の彼女はごく普通の女の子であった。

第四章、「アイドル看板踊り子」が置かれた現状

楽日も4回目が終わり終演となった。

楽日の劇場と言うのは踊り子と荷物でごった返している。踊り子の衣装ケースや生活用品など、宅配屋が搬出や搬入で忙しく出入りしている中、移動の踊り子たちも次の劇場へ行くため、劇場関係者や仲間の踊り子たちに挨拶を交わしたり、また明日からの出演のため早めに乗り込んで来る踊り子もいる。これを「まえのり」という。およそ、劇場の楽日、終演後の風景と言うのは、そのようなものである。

そんな中で、わざわざ私を呼び止めて、感想文の返信を持って来てくれた彼女にお礼を言いたかった。
しかし、この楽日のあわただしい中で、いつの間に「かんそうぶん」の返信を書いたのだろうか。
ともかく、私わ早く読みたいと思い、私の車が止めてある駐車場へと急いで歩いた。

「手紙」

「まずは私のステージの感想文だなんて、無理を言ってごめんなさい。

色々なお客さんたちからもステージの感想は聞きましたが、あなたほど深く私の意図するところを、読み取ってくれた人はいませんでした。

大体の人は織姫と牽牛の七夕のお話を、なぞった感想ばかりです。

リアリティーのある織姫の心情を読み解いてくれてありがとう。

あのステージでの織姫は、私そのものなんです。

織姫と、自分の事を重ね合わせて演じていました。

私はストリップが好きです。

お客さんの前で自分を表現できて、お客さんが、私のステージを見て、拍手をしてくれたり、共感してくれたり、ドン引きしたり。

自分がやっている事に、リアルタイムで反応してくれる。

あなたが以前に言ってたように、お客さんが、ドン引きしてる時でも踊り続けなければならない。

そんな時は、お客さんの視線が、私に向けて、飛んで来る針のように、全身に突き刺さるような気持ちになります。

でもそれがストリップと言うもの。

ステージに立つと言う事。

だからこそ真剣になれるし、自分とも向き合えるのです。

前回のステージで「アイドル看板踊り子」と呼ばれ、とても楽しく踊る事が出来ました。

あれは、あれでいいと思いましたが、もっと地に足を付けて、踊り子として本気でストリップに取り組みたい。と思うようになり、マニアックな濃い作品だと、一般受けしない事は百も承知の上で、今回の織姫にチャレンジしました。

踊り子として、今後もお客様を楽しませつつ、自己表現もして行きたいと腹をくくったからです。

しかし、そんな時に私の所属する事務所から言われたのです。

ストリップは大して利益上がらないから、もうこれで終了にすると。

あなたもご存じと思いますが、私の所属する事務所はAVがメインの事務所です。
その事務所に所属するタレントとしては、事務所の方針に逆らう事は契約上できません。

とても残念なお話になってしまいますが、今週の出演を最後に、私はストリップから引退する事になりました。

やっと自分のやりたい事が見つかったと思ったので、本当に残念です。

織姫は私。ストリップは牽牛。無理やり引き裂かれてしまう運命。それを表現したステージでした。

暗闇の中で、光る猫の目のような視線。私があなたに言った言葉ですが、私は嬉しかったんです。
真剣な眼差しで、私のステージを見てくれる人に出会えた事。

でも、これでお別れです。

私は織姫ではなく、かぐや姫となり、つきの世界へ帰らなければなりません。
これまで本当にありがとうございました。そして一つだけ、あなたにお願いがあります。

もし、今後、偶然どこかの街で私を見かけたとしても、声はかけないで下さい。
そこで見かけた人は、あなたが知っている私ではありません。
かぐや姫はつきの世界の人ですから、あなたの事を傷つけてしまうかも知れません。

これまでのご厚情、感謝いたします。

さようなら、アイドル看板踊り子より。」

私にとって彼女からの手紙の内容は、青天のへきれきと言うべきものであった。
今週見たあの作品で引退? 他のお客さんたちや、常連さんでもそんな話は誰も言わなかったし、聞かなかった。
多分誰もその事を知らないのであろう。

それにしても何と言う事か。

確かに、事務所の方針と言う事なら、いちタレントが、どうこう言えるものでは無いにしろ、あまりにも急な話ではないか。

せっかく踊り子として、腹をくくってやって行こうと決めた所なのに。
彼女にはストリップの創作ステージの才能があるし、表現力も素晴らしいものがる。
言ってみれば、今後のストリップ界を引っ張っていけるだけの実力がある。

それなのに、事務所の都合でハイ終了って。

ストリップのステージに立つって、そんな簡単なものじゃない。
あの舞台の上で踊るって、そんな簡単な事じゃない。
あれだけ多くのお客さんたちを熱狂させるって、そんな簡単な事じゃない。

真夜中の駐車場、車のルームランプに照らして読んだ彼女からの手紙。私は胸が張り裂けそうだった。
これからを期待できる優れた踊り子なのになんてこった。

劇場の社長は知っていたのかな、いや、そこは考えていなかっただろうな。
もしかしたら、彼女の事務所の社長だか、マネージャーだか知らないけど、今週、彼女の様子を見に来て、劇場の社長と話をしてて、「彼女目当て」のお客が減ったとか、そんな話を事務所の人間が聞いて、ストリップよりAVの方が儲かりそうだ。はい、終了みたいな?

だとすると、彼女の引退は、「今週急に決まった事」になる。
せめて引退公演くらい、やってからでも良かったんじゃねぇのか。
私が車の中でほざいてみても、何が変わるって事も無いが、無念だ。

こんな事になるなら、もっと劇場に通って、彼女のステージを見ればよかった。

仕事の都合なんて言ってないで、なりふり構わず、彼女の思いの込められたステージを、もっと見ればよかった。

そうか! 彼女はストリップ終了と言う話を聞かされていて、だから私に、感想文を、などと言ったのかも知れない。
そうすれば私が、感想文を持って、もう一度観劇に来ると考えたんだ。
なぜならば、今週で引退する事になるから、最後のステージ、最後の作品を、もう一度、私に見てもらいたかったに違いない。

何とも切ない話だ。

第五章、蛇足

せっかく踊り子として、「腹をくくって」やって行こうと決めた所なのに、所属事務所の方針転換で、いとも簡単に引退する事になってしまった「アイドル看板踊り子」の彼女。

公明正大な引退興行をする訳でもなく、沈黙を守ったまま、「フェイドアウト」。

才能のある踊り子であるがゆえ、本当にもったいないと言う気持ちしか私には残っていない。そうわ言ってもストリップの踊り子が引退する時、華々しく盛大に「引退公演」が出来るのは、ホンの一握りの踊り子だけで、その多くは、ふと気が付くと消えていなくなる事の方が普通だ。

思えば私は、手紙のやり取りを通じて、「結果報告」ではあったが、「彼女自身」が教えてくれたと言うのが、せめてもの救いではあった。
多分、彼女の事だから、私に気を使ってくれたものだと思う。でなければ、

「あの人は私が今週で引退だと知ったら、どんなに無理しても毎日劇場に通ってくるに違いない。」

と考えたのだろう。

「あんまり私に入れ込むと、火傷するよ? ほどほどに。」

が、以前彼女が私に言った言葉だからである。

それから「未練タラタラ」な気持ちを、なかなか成仏させられない「日々」が続いていた私だ。だが、気持ちを整理するために、忘れられずとも良い、心を静める事にする。と言う考え方に方向転換した。

彼女の引退からしばらくたって、劇場の常連たちがどこから聞いたものか、彼女が引退したそうだと言う話が水面下で広がって行った。
私はそ知らぬ振りをして「へぇ~、そうなのか。」と、冷静に話を聞いていた。だが、常連さんたちの話には、蛇足が付いていた。

「お宅さぁ、だいぶあの子に入れ込んでいたからショックだろうな。みんながお宅の事、何て呼んでたか知ってるか? 」

何の事だか私には分からない。

「優に狂った男って呼んで笑ってたぜ。」

そうなのか、それは知らなかった。「優」、と言うのは「アイドル踊り子」、彼女の劇場での名前だ。

私と彼女の「ポラ」や「フィナーレ」でのやり取りを、常連さんたちは冷静に客観的に、見ていたのだろうから、私が彼女に入れ込んでいたのは、一目瞭然だったのかも知れない。
自分としては、さほど派手に振舞ったとは思っていなかったが、他人の目と言うものは実に恐ろしきものなり。さらに常連さんが蛇足の話をご親切に聞かせてくれた。

「優ねぇさんは、どうやら「高級ソープ」に行ったらしいぜ。」

そ、ソープ?

「ソープ嬢として、お店に出てるって言う情報がある。たまたま、ソープに行ったヤツが、ソープ嬢のカタログに、「優ねぇさん」に、そっくりな女の子の写真があって驚いたって。さすがに指名する気には、なれなかったそうだ。少なくともオレたちが知ってる「優ねぇさん」は、踊り子の「優ねぇさん」だもんな。」

私は言葉を失った。いや、別にソープ嬢が悪い、と言っているのではなく、なぜ今、ソープ嬢なのかと言う事だ。

AV女優として有名なのは知ってる。けど、事務所の方針転換と言うから、またAVの方に戻るのかと思ってた。ストリップの踊り子として、活躍をしてる最中だと言うのに、ストリップを辞めてまで、何ゆえソープ嬢なのかと。事務所って言うのはさ、カネの事しか考えていないのか? 私は「事務所」って所に憤慨した。

彼女が、自分から「私、ソープ嬢になりたいんですぅ。」って言ったのなら、それはそれで、私も納得するかも知れないが。

しかしながら、常連さんたちの蛇足の話。私にとっては、思いも寄らぬ事ではあるが、

「少なくとも、オレたちが知ってる「優ねぇさん」は、踊り子の「優ねぇさん」だもんな。」

と、言う言葉に、なんと言うか、「ストリップ客」の、誠を見た気がして救われた。

私にとっても、常連さんにとっても、彼女は踊り子以外の、何者でもないと言う同じ思い。

それと、「優に狂った男」って呼んで、笑ってたぜ。」

その言葉は、私を侮辱するような気持ではなく、

「まぁ、気持ちは良く分かるよ。でも夢中になるなって。」

と言う、「劇場仲間」たちの、思いやりの気持ちも込められているのわ、私にも良く理解できる。

ストリップは、「義理と、人情と、思いやりの世界」、である。「常連さん」たちも、きっと痛い目に会った経験が、そう言わせているのだと思った。

最終的に、彼女は手紙の中で、

「もし、今後、偶然どこかの街で私を見かけたとしても、声はかけないで下さい。そこで見かけた人は、あなたが知っている、私ではありません。」

と、書いていた。ストリップの踊り子をやめて、「ソープ嬢」に、なるとは言えないので、そのように書いたのだと思う。いや、ちがう。彼女は、自分が「アイドル看板踊り子」として生きた時代の、生き証人になって欲しかった。そして、私の胸の中で「永遠におどり続ける踊り子で「あり続けたい」と、「こころひそか」に願ったのかも知れない。

私のようなストリップ客ごときに、そこまで気を使ってくれる彼女に涙が出た。彼女を応援して来た事に、何も間違いは無かった。いや、むしろ誇らしいとさえ思う。それは私に、「人を見る眼」が、あったと言う事だ。

結局、彼女がストリップをやめて、ソープ嬢になった事も、常連さんたちの思いやりも、事務所の事も、今の私には、どうでもいい。

彼女は、自分に与えられた時間の中で、とても素敵なステージを踊った、と言う事実。

そして、私もそんな踊り子を、精一杯応援したと言う事実が、すべてなのだと思う。

私は良い人と出会い、良い時間を過ごせた。と言う事だけで、充分満足だと納得した。

深夜の劇場の帰り道、ふと夜空を見上げると、無数の星が物言わずキラキラと瞬いていた。
だが、残念な事に、涙で星がにじむ夜は、誰にも言えない思いが「あふれて」、家に戻っても、今夜は眠れそうにない。

忘れないよ? キミの事。素敵なステージの事。

この物語に登場する個人・団体等は架空のものであり、実在するものとは一切関係ありません