屋根裏談話室オーディオブック

「ストリップファンタジー劇場」

第一巻「アイドル看板スター踊り子 」

著者。もずさん

音楽と編集。ゆきみ企画

朗読はわたくし、わたなべゆきみでお届けいたします。
 

第一章、アイドル踊り子
 
 

彼女はアイドル踊り子として大ブレークしていた。
彼女のキラキラした微笑みと、ハツラツとした元気いっぱいのステージを見るために、大勢のお客さんたちが劇場に詰め寄せた。

「彼女、中々いいね。今週の「稼ぎがしら」は間違いなくあの子だな。あの子一人の人気で場内、満員御礼だ。」

劇場の社長も上機嫌。踊り子も劇場側も人気商売である。その週に人気のある踊り子が一人二人いれば、劇場は儲かるし、お客がお客を呼んで来るので宣伝広告の経費も抑える事が出来る。

その週に8人の踊り子が出演していたとしても、客入りに貢献できるのはその踊り子の中の二人くらいだ。もちろんそのほかの踊り子がお客を連れて来ない、劇場の売り上げには、あまり貢献しない。と言う訳ではないが、おおむね劇場の客入り、売上の過半数を占めるのはそのくらいの割合なのだ。世間では80たい20の法則などと言われるが、今週はそれを彼女が一人でまかなっていた。であるから、劇場の社長が上機嫌なのはがてんが行く。

私も劇場の客席に紛れ込んでいたので、彼女の人気がどれほど絶大なものか肌感覚で知っている。劇場内は常に満員で立ち見するすきまも無い。お客たちの熱気は場内ばかりではなく、ロビーにいたるまで、うずうずと渦を巻いていると私には思えた。

アイドル踊り子を演じる彼女は、他の踊り子についている「追っかけ客」をも、とりこにした。普通ならこう言う踊り子は、その週に共演している踊り子からは煙たがられるものなのだが、彼女は幸い性格も温厚であり、良く人の面倒も見るので、ねたみや、そねみ、しっとなどされる事も無く、むしろ「踊り子仲間」からも可愛がられたり慕われたりしている。

私が彼女の今、話題のステージを見ていてダンスショウが終わり、ポラロイドショウになった時にちょっとだけ話が出来た。

「すごい人気だね。お客さんたちあなたのホワイトパラソルで心臓をグサリと刺されて、ノックダウンですよ。」
あぁ、ホワイトパラソルと言うのは、彼女のステージでの、小道具である。

すると彼女は、私がポラロイドカメラを構えた先で、ポーズを取りながら言った。

「私の方がお客さんたちの熱い視線で心臓、グサリ!ですよ。ふふふ。」

照れ笑いをし、ポラロイドカメラから排出された写真のすみを指でつまんで、うちわを振るように顔をあおいだ。

今撮ったポラロイド写真が戻って来るのは、その回の「踊り子全員」が踊り終えて、「ぱちんこフィナーレショウ」の時である。「ぱちんこフィナーレ」と言うのは、その回の出演者ぜんいんが、「よこいちれつ」、いちどうにかいして、リラックスしながら行う、アンコールのような「フィナーレショウ」の事である。なぜその「フィナーレショウ」の時なのかと言うと、それぞれの踊り子が自分のステージを踊り終え、一旦お客が撮ったポラロイド写真をあずかって楽屋へ持ち帰り、それぞれのポラロイド写真の余白や裏側に、サインやプリクラ風のシールなど、しゅこうをこらしたデコレーションをしてから、「フィナーレショウ」の時に、どさくさにまぎれて客席のお客さんへ返却する。

お客が踊り子のポラロイド写真、通称「ポラ」をとるのはそう言った楽しみがあるからである。「ポラ」に踊り子からのサービスとしてデコレーションされると言っても、お客とその踊り子との関係性、親密度により、デコレーションの内容は様々である。

いわゆる「一見さん」には社交辞令的な内容、「常連さん」にはフランクなコメントや業務連絡てきな事を書く場合もある。それ以上親密な「追っかけさん」の場合は個人的な手紙や業務連絡、なま写真なども別途ポラ袋に同封される事もある。ポラ袋と言うのは複数枚のポラを撮った時などに、ジャストフィットするサイズのセルロイド製の透明な袋の事である。

フィナーレが始まった。それぞれの踊り子がそれぞれのお客にポラの返却を始めた。
そしてアイドル踊り子の彼女も私の所に来て、舞台越しに紙の封筒を差し出した。
彼女はそれを私に手渡しながら言った。

「今日で今週三回目の観劇だね。ありがとうございました。」
私は紙の封筒を受け取りながら言う。
「たった一人の踊り子目当てで、週三回も劇場に来たのは初めての事でした。」
すると彼女、めを細めて、ニッコリと笑いながら言う。
「あんまり私に入れ込むとヤケドするよ? ほどほどにね。」
私は彼女のキラキラとした夢見心地なステージを見られるなら、少しぐらいヤケドしても構わないと舞台袖へ消えて行く彼女の背中につぶやいた。

ストリップの世界では、特別な暦を用いる。ストリップで一週間と言った場合、一週間は10日間である。1日から10日までがアタマ、11日から20日までがナカ、21日から30日までをケツと呼ぶ。それゆえ踊り子たちは10日間踊って全国の別の劇場へ移動する仕組みである。彼女が私に「ほどほどに。」と言ったのは、その週10日間のうち、3日間も劇場へ来て朝から晩まで一日中劇場に張り付いていたからなのだ。

彼女が暗黙の了解として言いたいのは、ストリップを見るにはお金がかかる。あまり踊り子に入れ込むとお財布が空っぽになっちゃうよ。と言いたかったのだ。劇場までの交通費、入場料、食事代、差入れのしな代、ポラの購入代など。常連や追っかけを始めると、月に10万円くらいは出費する事になる。ましてや遠征などを始めると、とてもそんなもんじゃ済まないのだ。

ともあれ、彼女から返却された紙の封筒には、先ほどのポラ写真が入っているのは当たり前だが、ポラ袋ではなく紙の封筒と言う事は、もっと他にも何か入ってそうだ。
私はロビーのすみっこへ行ってその封筒を開けてみた。封筒の中身はポラの他に、プライベートな空間で撮ったと思われるなま写真と手紙が入っていた。

「今週は私のステージたくさん見てくれてありがとうございました。良い所悪い所、色々あったと思いますが、これからもまた、少しでも良いステージを踊れるように頑張ります。
追伸。

暗闇の中で猫の目が光るような視線をずっと感じていました。それがあなたです。舞台の上から客席を見ると、いつもそんな真剣な目で私のステージを見てくれたのですね。怖かったわ、うふふ。 またどこかの劇場でお会いできますように。」

私はかぐや姫の曲、「神田川」の一節を思い出した。
「ただ、あなたのやさしさが怖かった・・・」