屋根裏談話室

#55 愛しのカノン!(12)

12. 身元引受人

ストリップ劇場ガサ入れ事件から数日が経った。今回のこの摘発は新聞でも記事になった。なぜかと言うと、本番劇場であったため、風営法違反、売春斡旋、公然わいせつ罪、出入国管理法違反、外国人の不法就労といくつもの罪が重なって、劇場は6ヶ月間の営業停止処分になり、劇場の社長はもとより、劇場従業員、踊り子、個室サービスを利用したお客も買春容疑で全員逮捕と言う大惨事だったからだ。

何よりも重大だった事は「売春斡旋」と言う罪を問われた事が大きかった。単にストリップ劇場でのガサ入れ案件だったら、ここまでマスコミのエサにはならなかっただろう。

あれから劇場はどんな感じになってるのだろうと、ビールの青年が劇場の前まで行ってみると、劇場の入口のシャッターに張り紙がしてあった。それは、白地に赤の縁取りがしてあり、全面通行止めの道路標識を思わせる赤色のバッテンが描かれ、その下に黒文字で「営業停止」と印刷されている。

「まぁ、こんな感じだろうなとは思っていたが、こんな所に営業停止だなんてワザワザ張り紙しなくてもなぁ。」

ビールの青年はこの劇場は嫌いな劇場ではあったが、この風景は思っていた以上に殺伐として思えた。少なくとも半年間はこのシャッターが開く事は無く、お客が来る事も無い。それよりも半年たって、営業の再開が出来るのだろうか。このまま倒産廃業して消えて無くなってしまうかも知れないと思う。

ストリップ劇場は、風俗営業で社会悪と警察が認定している。なので、新規に営業許可を取得してストリップ劇場を営業する事は出来ない。ではなぜ現在も数が少なくなったと言っても、ストリップ劇場は残っているのか。それは「既得権」と言う奴である。まだ社会がおおらかだった時代に取得した営業許可証があるので、新風営法の施行後も「既得権」として営業しているのである。

ただし、ストリップ劇場の経営者は個人名義で営業許可を取得している所が多かった。個人名義で営業許可を取得している場合、「一代限り」の営業許可なので、その経営者が廃業や、死亡した時に営業許可は消滅する。それゆえストリップ劇場の数は自然と減って行くと言う訳である。

しかし、法人名義で営業許可を取得している劇場では、その会社の社長が高齢で死亡したとしても、取締役会を開いて別の人を社長職に選任すれば、何ら問題なく営業継続が出来る。なので一時期、劇場の経営者が法人成りして会社運営と言う方法を使い、ストリップ劇場を守って来た。さらに、資金繰りが厳しくて法人成りが出来ない個人経営者の劇場には、大手のストリップ劇場を経営する会社が、資金を融通して法人成りさせて、その後、その法人となった会社に取締役員を送り込み、劇場経営権を握り、自社の傘下にその会社を入れたりしてストリップ業界とストリップ劇場を守っているのである。そのやり方が良いとか悪いとか言うよりも、そうでもしなければ二度と営業許可の下りない業界を守っていく事は不可能なのである。

ビールの青年はこの劇場は嫌いだったが、それでもストリップを観劇できる場が消えてく事には寂しさが募る。カノン姐さんが踊れる場所が一つなくなってしまう訳だし、何とか後の劇場を残して半年後には再開して欲しいものだと考えていた。

そんな所で携帯電話が鳴った。「ん、誰からだ?」と、胸ポケットから携帯電話を取り出した。見た事ない電話番号からの着信だったが、とりあえず出てみた。

「もしもし、こちらはピー!さんの携帯電話で間違いないですか?」と、聞いた事の無い男の声が言う。「はい、そうですが何でしょうか?」と返すと、「伊藤まり子さんと言う方のお友達ですか? あぁ、岩崎カノンさんと言った方が分かるかな?」伊藤まり子と言うのは岩崎カノンの本名であり、追っかけ歴三年の彼は、岩崎カノンの本名を知っている。

「まり子さんは自分の友達ですが、何か?」と、とぼけて言う。「実はご存じかも知れませんが、今、伊藤まり子さんは警察署にいるんですけれども、どなたか身元引受人になってくれる人はいますかと聞いたところ、あなたの事を指名したので、お電話をしたと言う次第です。」ビールの青年は、すぐに相手が警察だと分かった。と言う事は、取り調べが終わり、帰れるようになったんだなと思ったので、「そう言う事でしたか。身元引受人、了解です。で、いつ迎えに行けばいいですか?」と言うと、「事務処理等まだ残っているので、できれば明日か明後日のうちに来て欲しいのですが。それと、多少の荷物があるので、車で来てもらった方がいいかな。そうそう、あと印鑑、認印で良いので持って来て下さい。」そう言って電話は切れた。

そうか、カノン姐さん、やっと解放されるんだ。しょげてるのかな? あの人、鼻っ柱は強いけど、あれで意外に心が折れやすい人だから。それにしても自分の事を身元引受人に指名したとは、追っかけ冥利に尽きると言うか、ここは一肌脱がなくちゃ男じゃないよな。と、ビールの青年は一人でブツブツ言いながら駅へと歩いていた。

(2021.02.25)

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