屋根裏談話室

#54 愛しのカノン!(11)

11.岩崎カノン

「カレンさんは、このあとどうなるのかな?」

A氏がビールの青年に聞くと踊り子の場合、容疑が公然わいせつ罪だから、後の流れは決まっていると言う。警察署で事情聴取、留置場で数日お泊りしながら、供述調書を取られる。その間に何度も同じ事を繰り返し質問され、少しでも違う事を言うと、留置場にいる日数が長引く。そして供述調書が書きあがったらそれを読み聞かされ、記述に間違いがないか問われ、間違いが無ければ、拇印を押し、帰って良いと一旦開放される。

警察はその供述調書を素に検察庁へ書類送検し、起訴するかどうかを審査し、100%の確率で起訴されて裁判にかけられる。裁判の日程が決まると、裁判所から呼び出しの手紙「特別送達」と書かれた封筒が自宅に届き、その書面の指示に合わせて裁判所に出頭し、その日のうちに判決が言い渡される。6ヶ月以下の懲役、若しくは30万円以下の罰金。と言う具合だ。現実的には、罰金30万円を払って放免と言う事が多いようである。

A氏は、やはりずいぶんと面倒な事になるのだなと思った。それと、この時になってビールの青年が自分に見せてくれたポラ写真に、岩崎カノンさんの裸の写真が一枚も無かった理由が良く分かった。もしもの時に警察に引っ張られないようにするための自衛策なのだろう。と言う事は、彼はガサ入れが来るのを予感していたのだろうか?

ビールの青年が顔を曇らせて言う。

「ストリップ劇場にガサが入るのは日常的な事で、全国どこの劇場でも、ある程度定期的にガサ入れがある。でも大抵は月曜日か水曜日の2回目と相場が決まってるのに、何で火曜日の今日にガサが入ったのかは分からない。多分近所の人とかから、苦情や通報があったのかも知れない。良くある話ではあるけど、まさか今日とはね。そもそもこの劇場はね、本番劇場だからアイドル系の劇場と違って、ガサが入りやすい危険な劇場ではあるね。外人出てるし、個室あるし。警察からすれば摘発しやすい劇場だね。」

A氏はストリップ劇場へストリップを見に行くと言うのは、警察のお世話になると言う覚悟を、どこか頭の隅に置いておかないといけないんだなと思った。それにしても、私は今回2回目の観劇でガサ入れに遭遇すると言うのは、不運だったとしか言いようがない。しかし、ビールの青年君のような追っかけと呼ばれる人たちは、毎日のようにストリップ劇場に行ってる訳だから、もう何度もガサ入れに遭遇しているんだろうな。

「今頃カノンさんはどうしているだろう。」A氏がそう思った時、事情聴取と所持品検査の順番が回って来た。

さて一方、岩崎カノンは警察署で取り調べを受けていた。名前は? 本名は? 住所は? あの劇場にはいつから、いつまで出演予定だったのか。受領するギャラはいくらなのか。公然わいせつ罪になると知ってたのか。ストリップ劇場のような外部と隔離された場所でも、不特定多数のお客の前で局部を出すと罪になると言うのは知っているのか。知っててやったのか。これからもこの仕事を続けるつもりなのか。

そんな事いくら聞いても仕方のない質問ばっかりで、岩崎カノンはうんざりしていた。

「刑事さんさぁ、もう疲れたよ。全部認めるからどうにでもして。」

「尋問しているこっちだって疲れるんだ。しかし仕事だからな。手順にのっとって進めて行かないと。」

岩崎カノンはガサ入れにあったのは初めての事だ。もちろん逮捕されるのも初めてだ。踊り子仲間や劇場関係者との間で、ガサの話は聞いてはいたが、まさか自分が逮捕されるなど考えてもみなかった。ストリップの踊り子として踊るからには、当然覚悟をして踊っていると思うかも知れないが、お客の前で局部をさらす事は、すぐに慣れてしまい、感覚はマヒしてしまう。毎日の事であり、それが仕事なのだから、公然わいせつもヘッタクレも無くなってしまうのである。

しかし、こうして実際に逮捕されてみると、色々思う事があった。ストリップの踊り子になってからの事が、頭の中をぐるぐると駆け巡る。正直言って、別に悪い事をしたとは思っていない。局部、局部と警察は言うけれど、人間であれ、動物であれ、女なら誰でもあるものだし、言ってる警察の人だって家に帰ればカミサンの局部を見たり、エッチしたりしているし、浮気もすればギャンブルだってやってるだろう。それとも自分たちは特別だとか思ってるんじゃないでしょうねぇ?

岩崎カノンが言ってる事は警察への八つ当たりであるが、そうでも言わないといたたまれない。人通りの多い路上でストリップを踊ったと言うのなら、公然わいせつ罪と言われても納得が出来る。でも自分はストリップ劇場の舞台の上で踊ったんだし、そもそもストリップ劇場って所は、そう言う所でしょ。仕事としてやったからアウト? お金取ってやったからアウト? じゃぁ、素人として無料でやったならいいの? と、岩崎カノンの八つ当たりは止まらない。

ともあれ供述調書は出来上がり、読み聞かせられたところで、ここに拇印を押せと言われて押した。実際には先に供述調書の文章がテンプレートとして出来ており、そのテンプレートに岩崎カノンを、当てはめたと言う物。異論も反論もする気が起きないほど、事務的な処理であった。

刑事はいずれ裁判所から呼び出しがあるから、それまでは家で謹慎しているようにと言った。また、身元引受人に警察の方で連絡するので、迎えに来てもらうようにと言った。岩崎カノンは「身元引受人って言ったって、劇場の人も捕まってるし、家族とは縁が切れてるし、ダンナもおらん。事務所もやめてフリーでやってるし、どうしたものか。」と悩んだ。その時思い浮かんだのは、自分の追っかけをしているビールの青年の顔だった。彼の電話番号なら携帯に入っているから、彼なら力になってくれるかも知れないと思った。

(2021.02.24)

#44 愛しのカノン!(1)
#45 愛しのカノン!(2)
#46 愛しのカノン!(3)
#47 愛しのカノン!(4)
#48 愛しのカノン!(5)
#49 愛しのカノン!(6)
#50 愛しのカノン!(7)
#51 愛しのカノン!(8)
#52 愛しのカノン!(9)
#53 愛しのカノン!(10)
#54 愛しのカノン!(11)←今ココ
#55 愛しのカノン!(12)
#56 愛しのカノン!(13)