屋根裏談話室

#48 愛しのカノン!(5)

5. これぞストリップショー

「今は外人踊り子の時間帯だから、しょうがないの。2番目の人は日本人のすごい踊り子さんが出るから今は我慢の時間だよ。」

さっき、ビールの青年が言った「すごい踊り子さん」と言う言葉にA氏は期待していた。日本人のすごい踊り子さんって、どんな女の子だろ。今舞台に出て来たあの真っ赤な服着たピンクレディーの少々歳を食ったミーちゃんのような人の事か?

場内に流れるザ・ピーナッツの「恋のバカンス」。A氏は思わず口ずさんだ。

「懐かしい曲だな。死んだ女房が好きな曲で、良く鼻歌を歌いながら台所で夕げの支度をしていたっけ。きっとあのリズムがみそ汁の大根を刻むのにちょうど良かったのかも知れん。」

目の前の舞台の上で、真っ赤なショートドレスからスラリと伸びた細い足が、小気味よくステップを踏んでいる。そしてその細身の体を揺らし、微笑を浮かべながら客席のお客一人ひとりに「いらっしゃいませ。」と言うような視線を投げかけている。客席のお客たちもそのステージを見ながら、足先で調子を取るように床を踏んでいる。みな楽しそうだ。

A氏も何だか分からないが、すごく楽しいと顔がほころびている。とても良い気分だ。こんなに無条件に楽しいと思った事は何年振りだろう。A氏は鼻の下を伸ばしながら食い入るようにステージの踊り子のダンスに、そして踊り子のドレスのスソから伸びた細くて長い脚を見ている。

劇場が狭くて小さいので、照明と言っても光が当たっていると言うくらいのものだが、その分、舞台と客席の距離が無く、ボーっとしてると踊り子の足で頭を蹴られそうだ。その距離感で踊り子が踊りながら前盆へ進んで来る。A氏の目の前で、銀のパンプスを履いた踊り子の脚が忙しくステップを刻む。舞台の高さも低めで、客席から顔をまっすぐにして見ると、ちょうど踊り子のヒザあたりに顔が来る。

A氏は踊り子の短いドレスのスカートの中を、お辞儀をするように体を折り、顔を横にして見上げのぞき込んでいる。その体制が余りにも大げさだったので、踊り子が気が付き、上から客席を見下ろす。そして、A氏の正面に立ち、ニタニタ笑いながら他のお客さんたちに「ほら、見てよ。」と言うかのようなジェスチャーをして自分の真下にいるA氏を指差した。客席から笑い声がクスクスと上がる。すると踊り子が足を大きく開いて仁王立ちになり、スカートのすそをたくし上げる。

客席から大きな笑い声が上がる。A氏は「何が起きたのか。」と気が付いてもっと顔を上げた時、踊り子と目が合った。踊り子はA氏の頭を踏んずけるようなジェスチャーをして、場内が大爆笑となる。ひとりキョトン!とするA氏。

舞台の進行は2曲目につながって行く。テンポの速い「コーヒールンバ」である。しかもカスタネットがカチカチとリズムを刻む、フラメンコバージョンのものだ。踊り子は体が温まったのか、さらに本気で激しく体を震わせ、くるくると回りながらキビキビとしたダンスを披露した。それは圧巻のダンスである。情熱的でお客を誘惑するような、ミステリアスな色気を醸し出している。

場内も自然と手拍子が響き渡る。踊り子はまるでその反応を楽しむように、一心不乱に踊り続ける。A氏はその客席の光景とあまりにもキレの良いダンスの迫力に圧倒され、口を開けたままその踊りに見入っていた。「三十年前に行ったストリップ劇場では、こんなにすごい踊りをする人はいなかった。何だかレベルが違う。」と思った。

そして曲が半ばを過ぎた辺りから、脱ぎに入る。踊り子は後ろ手に背中のジッバーを引き下げ、クルリと後ろを向き、短い真っ赤なドレスから足を抜く。意外にツルリンとしたきれいなお尻が見える。今脱いだドレスを手繰り寄せて胸のあたりに当てたかと思うと、今度は片手をあげてポーズを取りながら正面に向き直る。決して若いとは言えない人だが、どこか可憐でチャーミングな踊り子である。

もう踊り子の体を隠しているのは、胸を覆っている脱いだドレスだけである。A氏はゴクリ! とツバを飲み込む。ドレスを持っている踊り子の手が、少しづつ重力で滑り落ちるように下されて行く。そして、曲のエンディングを迎えるタイミングで、完全にドレスは取り除かれ、ぷっくりとした白いふくよかな乳房が露出された。A氏が思わず「おっ!」と声を漏らした瞬間、照明が落ちて暗転となった。

暗転の暗闇の中、A氏の頭の中には今見た踊り子の色白でスキニーな裸身、特に細身な割には、ふくよかな乳房が残像として瞼の裏に焼き付いてる。しばしあって、再びステージにピンスポットが当てられる。すると舞台ソデの幕から、背中を向けて走り出て来る真っ赤な襦袢姿の女が一人。髪を乱しながら舞台中央で倒れ込む。何者か、追手から逃げて来たと言う設定か。三曲目のベッド曲は、森進一の「それは恋」である。

思いっきり和物のステージとなる。愛しい人との恋は実らぬさだめ。それでもあの人の事をあきらめる事は出来ない。女の恋心と情念をモチーフにしたものである。踊り子は悲痛な面持ちで、本舞台から心ここにあらずと言った放心状態で、よろよろと歩きつつ、前盆へと崩れ落ちた。ブルブルと小刻みに肩を震わせながら、恨めしそうな眼で客席正面を見上げる。踊り子がスッ! と顔を背けて流し目をした。するとA氏の顔が見えた。その時、A氏は大粒の涙を流し、すすり泣きしながら、踊り子の演じる姿を見ていた。

踊り子は襦袢の白いヒモをほどき、そのヒモの片端をA氏に差し出して手に持たせた。A氏はあっけにとられ、何だか良く分からないけど、不意に渡されたヒモの片端を手に握りしめた。踊り子は前盆の上でA氏に背を向けながら、そのヒモを一回り自分の首に巻いた。そしてゆっくりと立ち上がり、左手を自分の首に巻かれたヒモに。右腕を前へと伸ばしながらその身をのけぞらせると、A氏が持っているヒモは、ピン! と一直線に張り詰め、踊り子の首を絞め上げる。

踊り子はもがきながら右横へ倒れ込んだ。A氏はあまりにも衝撃的な出来事に、思わず立ち上がった! 「やっちまった!」と思った瞬間、後ろの席のお客がA氏の両肩を引いて、座席に倒すようにして無理矢理、座らせた。踊り子はしばらく倒れ込んだまま動かない。A氏は座席に座ったまま、息が荒くなっている。手が震えている。

そして四曲目のベットからの立ち上がりの曲が流れだす。森進一の「北の蛍」である。「ほ、蛍飛んで行け、恋しい男の胸へ行け」と言うフレーズに合わせて踊り子は揺ら揺らとヒザ立ちになり、クルリと反時計回りに回ると、首に巻かれた白いヒモが何事も無かったようにほどけて、ハラリ! と床の上に落ちた。恋に破れた女は赤い蛍となって空高く飛んで行く。踊り子は前盆から右に、左にと歩き、まるで蛍が飛んで行くように本舞台の中央へと戻って行く。そして客席正面へ向き直り、ポーズを取って照明が落とされて、ショーが終わった。

(2021.02.15)

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