屋根裏談話室オーディオブック4

第四章、「アイドル看板踊り子」が置かれた現状

楽日も4回目が終わり終演となった。

楽日の劇場と言うのは踊り子と荷物でごった返している。踊り子の衣装ケースや生活用品など、宅配屋が搬出や搬入で忙しく出入りしている中、移動の踊り子たちも次の劇場へ行くため、劇場関係者や仲間の踊り子たちに挨拶を交わしたり、また明日からの出演のため早めに乗り込んで来る踊り子もいる。これを「まえのり」という。およそ、劇場の楽日、終演後の風景と言うのは、そのようなものである。

そんな中で、わざわざ私を呼び止めて、感想文の返信を持って来てくれた彼女にお礼を言いたかった。
しかし、この楽日のあわただしい中で、いつの間に「かんそうぶん」の返信を書いたのだろうか。
ともかく、私わ早く読みたいと思い、私の車が止めてある駐車場へと急いで歩いた。

「手紙」

「まずは私のステージの感想文だなんて無理を言ってごめんなさい。

色々なお客さんたちからもステージの感想は聞きましたが、あなたほど深く私の意図するところを読み取ってくれた人はいませんでした。

大体の人は織姫と牽牛の七夕のお話をなぞった感想ばかりです。

リアリティーのある織姫の心情を読み解いてくれてありがとう。

あのステージでの織姫は、私そのものなんです。

織姫と、自分の事を重ね合わせて演じていました。

私はストリップが好きです。

お客さんの前で自分を表現できて、お客さんが、私のステージを見て、拍手をしてくれたり、共感してくれたり、ドン引きしたり。

自分がやっている事に、リアルタイムで反応してくれる。

あなたが以前に言ってたように、お客さんが、ドン引きしてる時でも踊り続けなければならない。

そんな時は、お客さんの視線が、私に向けて、飛んで来る針のように、全身に突き刺さるような気持ちになります。

でもそれがストリップと言うもの。

ステージに立つと言う事。

だからこそ真剣になれるし、自分とも向き合えるのです。

前回のステージで「アイドル看板踊り子」と呼ばれ、とても楽しく踊る事が出来ました。

あれは、あれでいいと思いましたが、もっと地に足を付けて、踊り子として本気でストリップに取り組みたい。と思うようになり、マニアックな濃い作品だと、一般受けしない事は百も承知の上で、今回の織姫にチャレンジしました。

踊り子として、今後もお客様を楽しませつつ、自己表現もして行きたいと腹をくくったからです。

しかし、そんな時に私の所属する事務所から言われたのです。

ストリップは大して利益上がらないから、もうこれで終了にすると。

あなたもご存じと思いますが、私の所属する事務所はAVがメインの事務所です。
その事務所に所属するタレントとしては、事務所の方針に逆らう事は契約上できません。

とても残念なお話になってしまいますが、今週の出演を最後に、私はストリップから引退する事になりました。

やっと自分のやりたい事が見つかったと思ったので、本当に残念です。

織姫は私。ストリップは牽牛。無理やり引き裂かれてしまう運命。それを表現したステージでした。

暗闇の中で、光る猫の目のような視線。私があなたに言った言葉ですが、私は嬉しかったんです。
真剣な眼差しで、私のステージを見てくれる人に出会えた事。

でも、これでお別れです。

私は織姫ではなく、かぐや姫となり、月の世界へ帰らなければなりません。
これまで本当にありがとうございました。そして一つだけ、あなたにお願いがあります。

もし、今後、偶然どこかの街で私を見かけたとしても、声はかけないで下さい。
そこで見かけた人は、あなたが知っている私ではありません。
かぐや姫は月の世界の人ですから、あなたの事を傷つけてしまうかも知れません。

これまでのご厚情、感謝いたします。

さようなら、アイドル看板踊り子より。」

私にとって彼女からの手紙の内容は、青天のへきれきと言うべきものであった。
今週見たあの作品で引退? 他のお客さんたちや、常連さんでもそんな話は誰も言わなかったし、聞かなかった。
多分誰もその事を知らないのであろう。

それにしても何と言う事か。

確かに、事務所の方針と言う事なら、いちタレントが、どうこう言えるものでは無いにしろ、あまりにも急な話ではないか。

せっかく踊り子として、腹をくくってやって行こうと決めた所なのに。
彼女にはストリップの創作ステージの才能があるし、表現力も素晴らしいものがる。
言ってみれば、今後のストリップ界を引っ張っていけるだけの実力がある。

それなのに、事務所の都合でハイ終了って。

ストリップのステージに立つって、そんな簡単なものじゃない。
あの舞台の上で踊るって、そんな簡単な事じゃない。
あれだけ多くのお客さんたちを熱狂させるって、そんな簡単な事じゃない。

真夜中の駐車場、車のルームランプに照らして読んだ彼女からの手紙。私は胸が張り裂けそうだった。
これからを期待できる優れた踊り子なのになんてこった。

劇場の社長は知っていたのかな、いや、そこは考えていなかっただろうな。
もしかしたら、彼女の事務所の社長だか、マネージャーだか知らないけど、今週、彼女の様子を見に来て、劇場の社長と話をしてて、「彼女目当て」のお客が減ったとか、そんな話を事務所の人間が聞いて、ストリップよりAVの方が儲かりそうだ。はい、終了みたいな?

だとすると、彼女の引退は、「今週急に決まった事」になる。
せめて引退公演くらい、やってからでも良かったんじゃねぇのか。
私が車の中でほざいてみても、何が変わるって事も無いが、無念だ。

こんな事になるなら、もっと劇場に通って、彼女のステージを見ればよかった。

仕事の都合なんて言ってないで、なりふり構わず、彼女の思いの込められたステージを、もっと見ればよかった。

そうか! 彼女はストリップ終了と言う話を聞かされていて、だから私に、感想文を、などと言ったのかも知れない。
そうすれば私が、感想文を持って、もう一度観劇に来ると考えたんだ。
なぜならば、今週で引退する事になるから、最後のステージ、最後の作品を、もう一度、私に見てもらいたかったに違いない。

何とも切ない話だ。