屋根裏談話室

#36 バースデーケーキ(4)

竹下は色々あって順調とは言い難いが、20分前頃にはバースケーキを持ち込めると思うと二階堂へ伝えた。二階堂はこちらの準備は出来てるから、あとはバースデーケーキ待ちだなと言って電話を切った。

「そうか、あとはオレがこのケーキを持って行けば、美咲杏ちゃんのバースデーイベントが始められるのか。う~ん、わくわくするなぁ~!」竹下の心はすでにバースデーイベントの事で頭がいっぱいになっている。もうしばらく行けば「三日月橋交差点」の信号だ。

劇場のロビーで、美咲杏の応援隊が集まってケーキ代の清算をしていた。「何人いるんだ? 竹下の分を差し引くと、一人頭六百円? めんどくさいから一人頭千円にして、ケーキ代差し引いて残った分はお祝い金として包む事にしよう。それでいい? じゃぁ誰かそこのコンビニ行って祝い袋買って来てよ。」二階堂が応援隊を仕切っていた。「それならオレが祝い袋買いに行って来るよ。」と言って、美咲杏応援隊の一人、高島が劇場の従業員に外出許可をもらって出て行った。

その頃、竹下は大通りの渋滞を抜けて「三日月橋交差点」を右折するため、右折レーンの最前列にいた。対向車の流れが途切れたら、そのまま右折すれば劇場は目と鼻の先である。

「美咲杏ちゃんのバースデーイベントだもんね。気合入っちゃうよね。それにしてもまさかケーキ屋でネームプレートの名前間違えるだなんて、ありえないよね。確認しなかったら花咲杏ちゃんお誕生日おめでとうってな事になって、大恥かくところだった。あぶない、あぶない。気が付いて良かったよ。あのケーキ屋の店員さん、アルバイトだか何だか知れないけど、泣き出す事はねぇよな。きっと純情な女の子なんだろうな。」

竹下は今日はほんと、ハプニング続きの一日だと振り返っていた。「三日月橋交差点」の信号は中々変わらないし、対向車の車の流れも中々途切れなかった。その時、考え事をしていたので右折待ちの間、ブレーキを踏んで停車していた竹下の右足が、わずかに緩み始めていた。しかし竹下はその事に気が付いていない。車はずるずるとゆっくり動き始めている。あまりにもゆっくり動き出したのと、竹下の心、ここにあらずと言う意識で、危険を察知する事ができなかったのだ。

竹下の乗った車は交差点の中央車線からはみ出して、ボンネットが対向車線に出た。そこで初めて竹下はその事に気が付きブレーキを強く踏んだのだが、竹下の車のゆっくりとした挙動に対向車も気が付いておらず、そのまま対向車は竹下の車に激突した。

対向車はブレーキをまったくかけずに竹下の車に衝突したので、そのガッチャー! と言う衝撃音はすざまじく、竹下の車はその衝撃の反動で横転し、屋根を路面にこすりつけながら停止した。竹下は一瞬意識を失い、真っ逆さまになった状態で血まみれになっている。一方、対向車の方もボンネットがグシャグシャに破壊され、運転手と同乗者は身動き出来ない様だった。

事故現場が騒然となり、救護に向かう人やら、交通整理をする人やら、野次馬やらの人たちでごった返している。

高島は劇場近くのコンビニへ祝い袋を買いに来ていた。するとコンビニに入って来た人が「今すぐそこで、でっかい事故やってるよぁ。」とコンビニの店員に話している。店内にいた他のお客も「どこ?」と言う風に一斉に外の方を見た。高島も外を見ると、確かにすぐ先で赤色灯を回した車がサイレンを鳴らしながら走って行くのを見た。高島は祝い袋をレジで精算してから外へ出ると、赤色灯が光ってる所で大騒ぎしている。

高島は「何かすげぇ事故みたいだな。ちょっと見に行ってみるか。」と事故現場の方へ小走りに走って行った。すると軽自動車が逆さまになって転がっているのと、ボンネットが大破している乗用車が見える。「こりゃーでかい事故だな! やっちまったな!」とつぶやきながら現場に近づいた。横転してひっくり返っている軽自動車の運転手さんは、どうやらつぶれた車体と運転席に足を挟まれているらしく、レスキューの人が運転手を車から引っ張り出そうとしていた。

「なんだかすげぇ~事になってるぞ?」と野次馬としてもっと近くに行ってみると、軽自動車で足を挟まれている運転手の顔を見て驚いた。

(2020.09.16)

#33 バースデーケーキ(1)
#34 バースデーケーキ(2)
#35 バースデーケーキ(3)
#36 バースデーケーキ(4)
#37 バースデーケーキ(5)
#38 バースデーケーキ(6)
#39 バースデーケーキ(7)
#40 バースデーケーキ(8)
#41 バースデーケーキ(9)
#42 バースデーケーキ(10)