屋根裏談話室

#35 バースデーケーキ(3)

あちゃぁ~! 竹下は何でこんな事になる? と思いつつもしょうがないので「じゃぁ、一刻も早くお願いします!」と店員の女の子を威嚇するようににらみつけた。

店員の女の子は申し訳ない気持ちと、にらみつけられた恐怖でシクシクと泣き出し、深々と頭を下げた。竹下はちょっと強く言い過ぎたと思い「いや、あなたが間違えた訳ではないので、泣かないで。ボクも言い方が強かったですね、ごめんなさい。」と言ったが、店員の女の子はヒック、ヒックと肩を震わせながらもう一度深く頭を下げた。

チョコレート製のメッセージプレートが出来上がるまでの間、なんとも微妙な空気感になる。店員の女の子はやはり気まずいと思ったのか、お嬢様のお誕生日なんですか? とその場を和ませようとして言った。竹下は「えっ? 違います。」とぶっきらぼうに言う。すると店員の女の子は、ビクッ! として申し訳ございませんと再び頭を下げる。これに竹下はまた驚いて「あの、別に気にしないで。美咲杏って言うのはストリ・・・」と言いかけてやめた。

さすがの竹下もストリップの踊り子の、美咲杏の事ですとは言えない。「あぁ、あの、彼女、か、彼女が誕生日なもんで・・・」と、とっさに口走る。すると店員の女の子はニコッっとほほ笑んで「それはおめでとうございます。きっと竹下様のお優しいお気持ちが、彼女様にも伝わり、今宵は素敵なバースデーナイトとなる事でしょう。」とテキトーな事を言って来た。

ともかくバースデーケーキは出来上がり、竹下は大急ぎでケーキ屋を出た。再び車を走らせると花屋へと向かう。やはり大通りは夕方の渋滞真っ盛りだった。ケーキ屋でだいぶ時間がかかってしまったので、またしても住宅街の中を走り抜ける裏道を行くしかない。

「急げ、急げ、急がないと美咲杏ちゃんのバースデーイベントに間に合わないぞ~!」竹下はとにかく先を急いだ。そして花屋の駐車場へ滑り込むが早いか、車を降りて花屋へ飛び込む。店員さんに予算五千円で、誕生日のプレゼント用の花束を注文した。美咲杏はガーベラの花が好きなので、それを織り交ぜてと注文を付けた。竹下は花束が出来上がるまでの間、腕に巻いたカシオと花束をこさえている店員を交互に見ながら、まるで小便が漏れそうなのを我慢しているかのように、小刻みに足踏みをしている。

「お客さん、トイレなら店の奥にありますからご利用ください。」と、花束をこさえている手を止めて店員さんが竹下に言う。「あ、いや、ちょっと時間がないもんで、急いでもらえないかなと。」竹下は焦って浮足立っている。花屋の店員さんは手際良く数本の花にガーベラの花を織り交ぜて、期待通りの素敵な花束を作ってくれたので、竹下は大いに満足した。

「よし、これであとは美咲杏ちゃんの待つ劇場へまっしぐらだ!」と車に飛び乗り走らせる。劇場への道は大通りをまっすぐ行き、途中にある「三日月橋交差点」の信号を右折すればすぐそこにある。ただ、渋滞中の大通りをずっと走って行かないといけないのが悩みの種である。しかし、幸いな事に渋滞が緩やかになって来ている。

「この分だと劇場には、何とか6時40分頃にはたどり着けそうだ。結構ギリギリだな。」するとそこへ、劇場でバースデーイベントの段取りをしている二階堂から電話がかかって来た。「竹下、そっちの方は順調か? 劇場へは何時くらいに来られそう?」竹下は色々あって順調とは言い難いが、20分前頃にはバースケーキを持ち込めると思うと二階堂へ伝えた。二階堂はこちらの準備は出来てるから、あとはバースデーケーキ待ちだなと言って電話を切った。

(2020.09.15)

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