屋根裏談話室

#34 バースデーケーキ(2)

竹下は会社で仕事中にタイムスケジュールを組み立てていた。
「あ~ 早く5時にならないかなぁ~」

やがて竹下が望む午後5時のアラームが鳴った瞬間「お疲れさまでした! お先に上がりまぁーす!」と言って席を立った。ところが、そんなときに限って上司が竹下の事を呼び止めた。「おい、竹下! お前何を焦ってるんだ。一日中ソワソワしてて、全然仕事に集中できてなかっただろ。今日は何かあるのか?」竹下はチッ!と舌打ちして「あ~、別に、これと言った何事もありませんので、お気遣いなく。」

「お気遣いなくだと? ちゃんと理由を説明しないと帰らせん!」何と間の悪い上司であろうか。「あの、定時は午後5時ですので、ご質問の件につきましては何ら不正に当たる事は無く、これ以上の質問には説明を控えさせていただきます。ではこれにて帰ります。お疲れ様でした。」と言うが早いか、竹下は自分の車が置いてある駐車場へと脱兎のごとく走って行った。それを見た上司は「あの野郎、菅みたいな事を言いやがって。」と憤慨していた。

さて、出鼻をくじかれた竹下は、上司の事など気にもせず車に飛び乗ってケーキ屋へと急ぐ。「まったく、つまんねぇー事で時間をロスしてしまった! 急がねば。」と車のアクセルを踏んだ。会社の敷地から出て、大通りへ出ると道は混んでいてノロノロとしか走れなかった。「まずいな、どこでも退社時間で混んでるのかぁ?」竹下がイライラとしながら腕に巻いてるカシオを見ると、自分の予定時刻より10分ほどオーバーしている。

「やばいなぁ~! この分だとケーキ屋には立ち寄れるかも知れないけど、花屋に立ち寄る時間が無くなるかもしれないぞぉ?」ちょっと走っては止まり、赤信号で止まり、またちょっと走っては止まり・・・ この繰り返しに竹下は焦り始める。「まずいな、やばいな、杏ちゃんのケーキ、誕生日のケーキ、22本のロウソクを立てて、杏ちゃんがそのロウソクの火を一息で吹き消せなくて、ごめーん! 一息じゃ無理~! とか言って、もう一回ふぅーって。あぁたまらんな、杏ちゃん好きゃねん。」

竹下の妄想は止めどなく広がるが、道路は渋滞したままであり、このままではいつになってもケーキ屋にたどり着けない気がして来た。「これはもう、まともに走ろうとしても無理だな。横道に入って走るしかないか。」竹下は横道に入って住宅街の中を抜ける作戦に出た。道が狭いのと、住人が飛び出して来る可能性もあるので、普通なら通らない道だったが、それしか先へ進む方法が無い。

あっちへ曲がり、こっちへ曲がりと、注意深く走りながら、やっとの思いでケーキ屋の裏側から駐車場へ入る事が出来た。時刻は予定時刻の15分を大きく過ぎていた。「バースデーケーキを予約していた竹下ですが、できてますか?」とケーキ屋の店員に言うと、店員の女の子がニッコリ笑いながら少々お待ちくださいと店の奥へ入って行く。すぐに戻って来た店員さんは「竹下様、こんな感じで出来ましたがチョコプレートのお名前、花咲杏様、その他間違いありませんでしょうか? 」と言った。

竹下は驚愕した。思いっきり名前間違えてる! 「名前間違ってます! 花咲杏ではなく、美咲杏でお願いしたはずなんですが!」そう言われたケーキ屋の定員の女の子が予約票のプレート文字の欄を見て、キャッ! と声を上げた。予約票には確かに「美咲杏」と書かれていたのである。「申し訳ございません。職人が書き間違えたみたいですので、直ちに作り直しますので、ご容赦ください。」と言う。
はぁ? 今から? マジかよ!「あの、時間ないんで、『花』の所を削って『美』に修正してもらえばいいんですけど。」ケーキ屋の店員の女の子はそれでは申し訳ないので、作り直させてくださいと、ガンとして聞き入れない。あちゃぁ~! 竹下は何でこんな事になる? と思いつつもしょうがないので「じゃぁ、一刻も早くお願いします!」と店員の女の子を威嚇するようににらみつけた。

(2020.09.14)

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