屋根裏談話室

#31 夜更けのMyu(5)

「愛があるならギターを封印してでも、あたしたちを守って欲しかった。夢をかなえる方法は正攻法一つじゃなくて、やり方さえ変えれば叶う方法もあるはずなのよ。彼はその事に気づけなかったの。」

Myu は一人でしゃべり倒した。私はそれをただ黙って聞くだけであった。Myu はまだ若のに、壮絶な人生を送って来たようである。私でもそこまでの経験はない。私は普通に働いて、休日か仕事終わりの時間にストリップ劇場へ行って、踊り子の素敵なステージを見て楽しんでいる平凡な人生を送って来ている。彼氏の事、実家の事、なにゆえMyu がストリップの踊り子になったのか。思いを巡らせればMyu の生き様に涙が出る。

「万沢チョッキー? どうしたの、泣いてるの? 涙流れてるよ。」私は不覚にも車を運転しながら泣いてたようだ。それはMyu の生き方に同情したものか、共感したものか理由は分からないが、Myu が話したそれれぞれの場面が映像となり、私には見えていた気がした。

不運な事案で挫折する彼氏、荒んで行く同棲生活、わずかなたくわえをも失い妊娠した事を中々言い出せないMyu 。うまく行っていない実家との障害、それでも子供を産みたいと耐え、娘を生んだMyu 。タイミング悪く突然現れた彼氏の身勝手な行い。

Myu はただ彼氏の事を信じていたのにな。いつも残酷な現実を叩きつけられてもそれに心折れなかったMyu 。私は「なんだろうな、満月にやられたのかも知れない。」と言って流れる涙を手で拭った。それにしても買い物に付き合っただけの私に、どうしてこんなプライベートな話をしたのだろう。

「Myu さんの歩んで来た軌跡は良く分かったけど、どうしてそんなプライベートな話を聞かせてくれたの?」そう聞くと「万沢チョッキーが、聞いて来たからよ。私のステージの物語のすべて。」あのステージの物語? オープニングからベットの立ち上がりまでの間に、Myu の半生のすべてが表現されていたと言う事か! 前半のROCKなダンスは彼氏が夢破れ打ちひしがれていた場面だったって事か? そしてベットからMyu の苦悩と彼氏への未練、決意と再出発と言うストーリーだったのか!

そんなに多くのリアルな心情が描き込まれていただなんて、思ってもみなかった。私は何て浅はかな考えでMyu のステージを見ていた事か。さすがに恥じ入った。

国道の交差点を左に折れ、田んぼに囲まれた農道を走りストリップ小屋の裏手から駐車場へと入って行く。もうこんな夜更けに誰もいるはずも無く、駐車場はひっそりとしていた。楽屋の入口に近い場所に車を止める。

「さぁ、着いたよ。お疲れ様。」と私は先に車を降り、Myu が乗っている方のドアを開いた。Myu はドンキの紙袋を大切そうに胸にかかえて車を降りた。「万沢チョッキーさん、今夜はありがとう。あたしが余計な事言わなけりゃ、もうとっくに家に帰っていたはずなのにね。」とMyu が言うので、私は「いや、Miyu さんのおかげで私の方がむしろ楽しかったよ。ありがとう。ステージの物語も教えてもらったし、でもまさかMyu さんの物語だったとは夢にも思わなかったけどね。」

「そうね、でも他の人には内緒にして置いてね。この世界に一人くらい、生き証人として知ってる人がいても良いと思ったから全部話しちゃった。ふふふ。」生き証人か、責任重大だな。誰にも言う事なく墓場まで持って行かなきゃならないんだ。

「万沢チョッキーさん、最後にもう一つだけ秘密を教えるよ。明日、娘の誕生日なんだ。あたしがドンキに買い物に行きたかったのは、娘のバースデープレゼントを買い行くためだったの。当日だと買いに行くの間に合わないから、どうしても今日のうちに買い物行きたかったのよ。万沢チョッキーさんのおかげで、あたしのささやかな願いが叶えられた。ホントにありがとう。」

買物に連れて行ってあげただけで、そこまで言われちゃうと何だか恥ずかしいな。それにしても、娘の誕生日のプレゼントだったのか。と言う事は、娘さん楽屋にいるのか? それにも驚いたな。

(2020.09.11)

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