屋根裏談話室オーディオブック3

第三章、「アイドル看板スター踊り子」の事情

彼女のダンスショウが終わり、ポラタイムが始まった。

幾人目かのお客が撮影した後、私の番になった。
私は彼女の所へ行き、ポーズを指定しながら彼女の様子を伺う。カメラのファインダーを通して見た彼女は前回と同様、屈託のない満面の笑みでポーズをとっている。相変わらず可愛い「アイドル踊り子」以外の何者でもない。そこで手短に聞いてみた。

「さっき、ベッドショウの時に何か言いたそうな顔してたけど?」

すると彼女は大笑いしながら言った。「いい男がいるな。と、思ってさ。」

見事な切り替えしである。それゆえに何か意味深な気がした。
ポラショウの時は他のお客も見てるから、たとえ何か言いたかったとしても、その場でなんでも話すのは無理なのである。私は自分の席へ戻った。

彼女のポラの販売数は結構伸びており、「アイドル看板踊り子」にふさわしい売れ行きであった。

そしてフィナーレが始まると、先ほど撮ったポラを持って彼女が私の所にやって来た。
それと一緒に、また紙の封筒も渡された。それを受け取ると「フィナーレの終了」をまってロビーへ行った。

「ポラ写真」はともかく、紙の封筒の方が気になる。やはり手紙が入っている。

「お久しぶりです。お元気でしたか? もしかしたらあなたも今日の私のステージを見て戸惑ったかな?

あなたの眼から見た、率直な感想をお聞きしたいです。込み入った話は、あなたの感想を聞いてからお話しします。」

やはり彼女に何か起きている。込み入った話って何だろうか。

ともかく、「今日見た」彼女のステージの感想文を書かない事には、何も始まらないようである。
今日は、これで「一旦引き上げて」、家で落ち着いて感想文を書く事にする。

「ポラロイド写真」の中で、屈託のない「キラキラ」とした笑顔の向こうに、一体何が隠されているのだろうか。

【感想文】

劇場から帰宅後の深夜、私は今日見て来た彼女のステージ作品について率直な感想を便せんに書き記した。おおむね次のような事である。「ストオリイ物」の創作作品については、劇場の七夕公演と言う事なので、おそらく「織姫と牽牛のお話」をモチーフに創作された事は、ショウが進むにつれて確信を持った。しかし、その物語の中で、誰もが知っている「織姫と牽牛の話」だけではなく、きっと織姫の牽牛に対する、現実的な女心を描きたかったのではないかと感じた。なぜならば、ベッドショウを見ていれば良く分かる。

多分、普通にあの物語を表現したいなら、一年に一度だけれど、出会えた喜びにフォーカスして物語を展開する所だが、あなたがフォーカスしたのは織姫が牽牛と出会えた喜びではなく、また時が来れば牽牛と離れ離れになってしまう悲しさ、未練の方へ物語の焦点を向けていた。愛し合ってる二人ならば、このままずっと一緒にいつまでもいたいと願うだろう。現実はいつも残酷だ。何度再会出来たとしても、たった「いちにち」で引き裂かれる「さだめ」、である。

それならば、「いっそ」牽牛を殺して自分も死に、未来永劫、永遠の愛をと織姫は願う。しかし、そこに踏み込めない織姫の迷い、苦しみ。そう言う所を演じていたのではないかと私には思えた。「すとおりい」として、とても面白い切り口だと思った。

それにしても「アイドル看板踊り子」のあなたが、ガラリと趣を変えこの作品に挑んだ事には正直びっくりしましたよ。前回の「アイドル路線」のステージをやれば、お客も、劇場の社長も大喜びしただろうに。

今回のステージは「ベテラン踊り子」が演じるような、濃厚なステージだった。でも、それを分かっていて、あえてあの作品を「引っ提げて」登場したと言うのには、きっとあなたに思う所があって出して来たとしか私には思えません。

サクっと感想文をしたためるつもりだったのに、明け方までかかってしまった。
ともかく楽日までにこの感想文を届けなければ。

使命感のようなものを感じながら、私は仕事の都合を「無理やり」つけて楽日の劇場へ行き、彼女に感想文を届ける事が出来た。

踊り子にとって楽日と言うのは移動日であり、自分の「よんかいめ」のステージが終わった順、遠方の劇場に移動しなくてはならない踊り子から、劇場を去って行くので、「よんかいめ」の回にはフィナーレは無いか、もしくわ、「いのこって」いる踊り子だけでフィナーレをやるのである。こんな日に、たとへ感想文を彼女に渡したとしても、返信などあるはずもない。

ところが、終演後に彼女は、帰ろうとしている私を、ロビーで呼び止めた。

「すみません、時間が無くて。」

そう言って私に紙の封筒を手渡し「ありがとうね。」と手を振りながら楽屋へ戻って行った。
私は彼女と初めて同じ床の上で向き合ったが、私服の彼女はごく普通の女の子であった。