屋根裏談話室

#29 夜更けのMyu(3)

道の途中でウィンカーを右に出し、安全を確認してからドンキの駐車場へ車を滑り込ませた。二人で車を降り、店の中へ入って行く。しかしMyu の表情が曇り出す。
「どうかしたの?」と聞いてみると「何かが違う。」と言う。

店内を見回してMyu が言うには「ここはあたしが知っているドンキじゃない!」と言うのだ。なるほどそう言われて見回してみると、店内にはぬいぐるみや雑貨などに特化した商品が並べられている。確かに私が知っているドンキではない。Myu を連れて外へ出て店の看板をよく見てみると「ドンキファンシーショップ」と書いてあった。

ドンキ違いである。そうなると普通のドンキはどこにある? やはりこんな田舎にはドンキは無いのかも知れない。そうだとすると、ちょっと遠くになるけれど街へ出ないと無いかもしれない。Myu に承諾を得て私が知っている普通のドンキへ向かう事にした。

インターチェンジの入口へ向かい、高速道路へ侵入して行く。「えっ? もしかして高速道路に入った?」とMyu が言うので「うん、一区間だけだから。すぐに着くよ。」と私は言った。するとMyu は「あたしのために高速道路まで使って。あたし迷惑かけてるね。高速代はあたしが払うよ。」と殊勝な事を言った。

「そんな事心配しなくていい。ちゃんとしたドンキに連れて行ってあげないと私の責任が果たせないから。」車は妙な二人を乗せて夜更けの高速道路を進んで行く。

高速道路を出ると市街地に入る。しばらくしてMyu が言う。「あたし、このあたり何だか見覚えがある気がする。」それはそうなんだろ。この街にもストリップ劇場がある。多分Myu はそこの劇場にも出ていた事があるのだろう。「あぁ、思い出して来た。ここの劇場に出ていた事あるわ。」

ともあれ無事にごく普通のドンキに到着。立体駐車場から店の中へ入って行ける。Myu は水を得た魚のように店内をめぐって行く。私はMyu が何を買いたいのか聞かされていないので、Myu の後ろを金魚のフンのようについて行くだけである。

「あのね、万沢チョッキーは自分が見たいものがあったら見てていいよ。はぐれても、さっきの駐車場の入口の所で待ち合わせすればいいだけだから。」

Myu はどうしても自分が買いたい物を知られるのが嫌なようだ。それならと言う事で、店内別行動と言う事になった。それにしてもMyu の着ている服は派手過ぎて、すれ違う人が振り返って見て行く。いくら街と言っても地方都市だから、Myu のように背中丸出しでエナメルの白いホットパンツに厚底の編み上げブーツと言う、ほぼ衣装なんじゃないかと言うような服装をしている女の子はどこにもいない。

私は取り立ててドンキで買うようなものは無いから、先に駐車場の出入り口へ行ってMyu の買い物が済むのを待つ事にした。近くにあった自販機で缶コーヒーを買い、それを飲みながら夜更けの空を見ると、満月の夜だった。

しばらくするとMyu が小振りな紙袋を手に提げて戻って来た。「お待たせでした。もうあたしの用は済んだけど、万沢チョッキーは? 何か買物したの?」私はMyu のタクシー代わりに来ただけなのだ。「あぁ、コンドームを1グロスだけね。」するとMyu は私の背中をポンポンと手で叩き、大笑いした。「万沢チョッキーさんは面白いね。うん、面白い人だ。だって、1グロスって言うと12ダース、144回分か。あはは。」

この子は計算するの早いな、冗談を言った私の方が言われてびっくりした。1グロスって12ダースだとは知らなかった。ともかく用は済んだので、再びMyu を車に乗せて小屋へ戻る。もう夜も遅いので、道路は空いていた。ふと気が付くと珍しくMyu が助手席で静かに治まっている。私は「疲れましたか?」と声をかけてみると「ううん、満月がきれいだなぁと思って見とれてただけ。」と言う。「満月の光は女心を狂わせるって言うよね。」Myu は満月を見つめたまま真顔で言う。

「そうよ? 満月の夜、女は月の光を浴びて狼に変わる。あたしのそばにいるとあなたを食い殺す・・・かも。」そんな話は聞いた事が無い。満月の夜に月を見て変身するのは狼男と相場が決まっている。狼女なんて聞いた事が無い。

「あのさぁ、あたしのベットショーには一つの物語があるように感じたって言ってたよね? それは半分正解。でも半分不正解ね。あのショー全体で一つの物語になってるの。とても残酷な物語よ。」いきなりこの話を持ち出して来たMyu に私は当惑した。とても残酷な話ってどう言う事だろう。

(2020.09.09)

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