屋根裏談話室

#28 夜更けのMyu(2)

ベットショーを見てこんなに感動したのは初めての事だった。私はMyu にハマってしまい、この田舎町のストリップ小屋へ足しげく通うようになった。

毎日とまではいかないが、いつも同じ席に座ってMyu のショーを見ている私に気が付いているのか、Myu が時折私を見て微笑みかける事がある。するとあの片えくぼがチャーミングに表れる。それを見ると何か得した気分になれた。いつもそれだけの事でこのストリップ小屋に通ってる。

ある日の事である。その日の上演がすべて終わり、駐車場に止めてある車に乗ろうとしている時、近くで女の声がした。振り返るとその声を上げていたのはMyu であった。「えぇ? 誰も手が空いていない? 送迎に出ちゃってるから車も無い? 困ったなぁ。」ストリップ小屋の従業員は「すみませんね。」とだけ言って、そそくさと小屋の中へ戻って行った。ポツンと一人、その場に取り残された感のあふれるMyu 。

話の様子から車が必要だと言う事は理解できた。推測として片田舎の小屋なので、おそらく買い物に行きたいが足が無いと言う事ではないか。その場には私しか居ないので、ちょっと声をかけてみた。「おねーさん、買い物か何かに行きたいの? 必要なら車出してもいいけど?」するとMyu がスタスタと小走りにやって来た。

「あのねぇ~、ドンキに行きたいんだけど、車が出払っているってさ。あたしはどうしたらこの問題を解決できるかしら?」

面白い事を言う人だ。ドンキに買い物に行きたいのなら答えは一つしかない。「その問題を解決するには勇気が必要だな。見ず知らずの男の車に乗れるかどうか。」Myu の言い回しを真似てそう言ってみた。「見ず知らずだって。あははっ! 毎日のようにここへ来てあたしの裸見てるじゃん。もう隠す事も守ような事も何もないでしょ。面倒な事を言ってないで、あたしを助けてちょうだいよ。」

言われてみればその通りだ。女の子にとって自分の裸以上に隠すものなんて無いのかも知れない。「了! 話が早いな。じゃぁとにかくこの車に乗って。」何の躊躇も無く私の車の助手席に乗り込んだのを見届けてドアを閉めてあげた。そして私は自分の車を回り込んで操縦席に乗り込む。

「ドンキに行きたいんだっけ? 確かここに来る途中にドンキはあったような気がする。何買うの?」はずみで買いたい物を聞いてしまった。「それを聞いてはいけません! 秘密です。」と返して来た。ともかく出発して走り出した。沈黙が続くと気まずいなと思ったが、それは取り越し苦労だった。Myu は案外気さくに良くしゃべった。

「ねぇ、見ず知らずの女の子を乗せて走る気分てどう? このままラブホとかに連れ込んでHなコトとかしようって考えるの?」

なんてこと言ってくるのかね、この娘は。「私の考えてる事? 正直に言う。ドンキってどこにあったっけなって事しか考えてないよ。」そう答えるとMyu は高笑いをして言う。「マジメな人ね。まだ名前聞いていなかった。」そう言えば名前はまだ教えていなかった。「一度しか言わないからよく聞いておいて。万沢直樹って言います。仲間からは直樹だからチョッキーって呼ばれてるよ。」

Myu は助手席からこちらに顔を向けて私の事をシゲシゲと見る。「それ本名なの? すごい名前だわ。じゃ、万沢チョッキーさん、一つ聞いてもいい?」この呼び方、やはり普通の人ではない。普通は愛称をチョッキーって自己紹介してるので、単にチョッキーって呼んでくれると思うが「万沢チョッキー」って、苗字を付ける感性が面白い。

「毎日のようにあたしのステージ見てて飽きない? やってる事いつも同じだよ?」珍しい質問だと思う。見ている側はお気に入りのステージだから何度でも繰り返し見ていたいと思うものだが、この質問が出ると言うのは、踊り子側からするとそうは思っていないと言う事である。

「飽きないよ? いつもその時によって微妙に違うじゃん。その日の気分が影響してるのか、何か思う所があるのかは分からないけど。」Myu はふん~んと言うニュアンスで返して来た。それならばとこちらからも聞きたい事があったので、直接聞いてみる事にした。

「ベットへの導入からベットの立ち上がりまでが、前半とは違って一つの物語があるように感じているんだけど、何か思い入れみたいなものがあるの?」そう聞くとMyu は言った。「赤信号! 」えっ? びっくりしてブレーキを踏んだ。「信号の見落としは命取りになるよ? それともあたしと心中したい?」Myu と心中? それも悪くはないと一瞬思ったが、まだ黄色信号で、車が停止した時に赤に変わった。

「ドンキってまだ遠いいの?」
「いや、あの辺に見えてくるはず。あ、あれだ。」

道の途中でウィンカーを右に出し、安全を確認してからドンキの駐車場へ車を滑り込ませた。

(2020.09.08)

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