屋根裏談話室

#27 夜更けのMyu(1)

Myu 、彼女の名前だ。と言っても、もちろん本名ではなく愛称である。子供の頃からかみんながそう呼ぶので、それが彼女の芸名になったのだ。Myu は全国各地の劇場を旅する踊り子である。手持ちのバッグと大きなキャスター付きの旅行カバンを一つ。それがMyu が持ち歩いている荷物である。

「私はジプシーみたいなものよ。そう、踊り子ジプシーね。」

いつもそんな事を言ってはあっけらかんと笑う。するとMyu の右の口元にえくぼが出来る。それを見た人は必ずMyu に言うのであった。「えくぼがカワイイね、生まれつき?」ホントを言うとMyu はそれを言われるのが嫌なのだ。なぜかと言うとそれが自分のウィークポイントだと思っているからだ。Myu はそれを言われた時には必ずこう答えた。

「生まれて三日目の夜、あたしが寝ている時にママが右側の顔を踏んずけてからよ。どうせなら左側の顔も踏んずけてくれれば、あたしはもっと可愛くなったのに。」

もちろんそれはMyu が考えた作り話だ。Myu は片方にだけでなく、えくぼが出来るなら両側にできるか、普通の人のようにそんなものは無ければいいと思っているのだ。けれどその片えくぼがMyu のトレードマークになり、初見の人にもすぐに顔を覚えてもらえると言うのは利点であった。

そんなMyu に私が初めて出会ったのは、田園風景の片隅にある小さなストリップ小屋だった。都会にあるストリップ劇場とは客層が違い、近所の農家のオジサンが軽トラに乗ってやって来る。田舎町なので、パチンコに行くかここのストリップ小屋くらいしか娯楽施設は無い。若くてきれいな女の子のストリップショーは、農家のオジサンたちには刺激的で、パチンコに行くよりも、やはり人気がある。

Myu と私が初めて出会ったのがこう言うストリップ小屋である。ただ、客層と立地条件がこう言う所なので広い駐車場があるのは良い点である。デメリットとすれば、駅から歩いて行くには果てしなく遠い所であろうか。私はMyu と言う踊り子の名前を以前から知っていた。ストリップ仲間の評判では、ダンスも上手だし、話も面白く、えくぼのカワイイ踊り子だと聞かされていた。ちょうどそんな折、Myu がここの小屋に出演する事を聞き、面白そうな踊り子なので実際に自分の目でそのステージを見てみたかったのだ。

◆ Myu のステージ

割と広めな舞台に登場したMyu は、思っていたよりも小柄な人だった。そして片えくぼのカワイイ踊り子と言うのは間違いなかったが、ステージの進行はアイドルと言うよりも、ディストーションギターをかき鳴らすRockなダンスである。ちょっと意表を突かれたと思ったが、ダンスのキレが抜群に良い。見ているだけでその気にさせる踊り子と言うべきか。踊るMyu に合わせて叩く手拍子にも力が入る。

ベットショーに進んで行くと、ローリングストーンズの悲しみのアンジーが流れ、まるでMyu はこの曲に登場するアンジーなのではないかと思わせるような演技力だ。この枯れた風景の中で夢を追い求めて来た二人だけれど、もうすでに金は使い果たし、夢のはかなさを知る。そして愛し合っている二人が今まさに夢破れ、これで別れようと最後のキスをする・・・

Myu のこのベッドショー、悲しいほど美しいと言う切ない表現に私は胸を打たれた。これは演目であって、Myu 自身の事ではないのだが何故かその二つを重ね合わせてしまう。ベットショーを見てこんなに感動したのは初めての事だった。私はMyu にハマってしまい、この田舎町のストリップ小屋へ足しげく通うようになった。

(2020.09.07)

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