屋根裏談話室

#25 仮面舞踏会(6)

「驚いた。チョッキーみたいなお客さんもいるんだね。」
私みたいなお客さんてどう言う事だろうか。

「私はね、ストリップ劇場に集まって来るお客さんたちって、寂しい人が来ると思ってるの。こんな事言ったら怒られるかもしれないけど、普通の女の子からかあんまり相手にしてもらえない人? いいや、単刀直入に言っちゃおう! モテない人たち。(笑) でも劇場に来て入場料さえ払えば、きれいな踊り子さんたちが、タイやヒラメの舞い踊りで楽しませてくれる。お客さんたちは良くストリップ劇場は竜宮城だって言う事があるよね。俗世間を忘れてひと時自由になれる場所。

劇場の場内への扉を開けて中へ入れば、そこには職業の貴賤も無く、学歴も住んでる場所も関係なく、日頃モテない人でも踊り子さんたちが一緒に遊んでくれる。男の人からすればまさに竜宮城だよね。仕事で上司に怒られたり、部下に突き上げられたりして、自分の居場所が中々見つけられない人でもストリップ劇場へ逃げ込めば、どんな人でも浦島太郎になって心安らかな時間を過ごせるでしょ。きっと人それぞれ色々な事情がありながらもここへやって来る。

でも浦島太郎さんたちは、ここが楽しいからっていつまでも時間を忘れて遊んでいると、やがてお金も使い果たし、奥さんにも逃げられ、いつの日か一人になって玉手箱を開けた時に、お爺さんに・・・(笑) 楽しみはいつもお金と引き換えで、竜宮城は何をするのもただでは楽しめない。あぁ、何て悲しい人たちなんだろって。」

ミナミは急にそんな事をしゃべり出した。私に対する警戒が解けたからなのか?

「あはは。面白いねその話。当たらずとも遠からず、言い得ていて妙と言える。確かに踊り子の応援さんしていて月給使い果たしても、武富士でお金借りて踊り子の元へ通う人も実際にいる。その人が言うには、オレには金がないけど、オレの代わりに武富士がいくらでも金持ってるから金の心配はない。と豪語していたね。

それに、モテない人たちと言うのも当たっているかも。踊り子さんと恋愛ごっこをしている人もいる。遊びならいいけど本気になると始末が悪い。でも踊り子さんもお客さんも男と女だから本当に恋愛して結婚しちゃう人もいるね。」

ミナミがうん、うんと頷きながら聞いていたが「チョッキーはどうなの? 劇場に何を求めて来ているの?」と言うから「そうね、恋人探しかな。」とおどけて言うとミナミは信じられないと言った具合に店の天井を見上げて首を左右に振りながら言う。

「マジィ? そう言う目で私の事も見ている分け? 私はダメだよ? ダンナがいるし。踊り子って彼氏やダンナ、ヒモとかがいる人が多いんだよ。恋人探しで劇場に通うのはお勧めしない。それが現実。」ミナミは私の話を真に受けていた。それにしても新進気鋭、売り出し中のアイドル踊り子ミナミにダンナがいるとは思わなかった。衝撃的な話である。

「あのね、劇場は竜宮城って言う話は、お客さん側からの視線でしょ。踊り子側からすれば、劇場は職場。それはソープでもAVでも同じで、生活費と遊ぶお金が欲しいからそこで働いてるの。ダンナの収入だと足りないとか、彼氏と遊ぶのにお金が欲しいとか、現実的な話だよ。

自分にファンがいても、いなくても劇場で10日間踊ればギャラはもらえるから、別に応援さんがいようが、いまいが、媚を売ってまでファンを増やそうだなんて全然思わない。チョッキーの事もそうだよ? 自分のファンとして抱え込もうなんて、まったく思ってないからね。」

ミナミがあまりにもムキになって話し出したので、私は焦って話をさえぎる。

「ご、ごめん。冗談だよ。恋人探しだったらもっと直接的、戦略的に狙いを定めて突撃するって。(笑) 私がストリップ劇場に行くのは、個性豊かな踊り子さんたちの創作するステージショーを楽しみたいと言う気持ちしかないよ。もっと言えば、そう言う踊り子さんたちのステージを見て、感想文を書く事が趣味なんだって。」

「ホント?」疑われてる(笑) 「ホントだって!」と打ち消すと「じゃぁ、ダンナがいても問題ない?」とミナミが上目遣いで私を見る。「私にはステージの上での事がすべてです。」その答えに安堵したかのようにミナミは微笑んだ。ダンナがいる事に引け目を感じているのだろうか。

「私は踊り子側からの視線で言うけれど、踊り子は裏稼業。みんなカワイイ顔していても、その経歴は様々で表立って人に言えないような黒幕史ばかり。堅気の人が踊り子にホレてはいけない。優ねーさんがそう言ってたでしょ? ヤケドするよって。私だってアイドル踊り子とか言いながらダンナはいるし、この世界に入るキッカケは家出してお金が無くて、ランジェリーパブで働いてる時に事務所の社長にスカウトされた。

ソープで働いてた事もあるよ。だけど踊り子としてデビューする事になって、それまで私についていた風俗のお客さんがストリップにまでくっついて来るのが嫌で、これまでのしがらみを一旦清算しようと思って、顔を整形してからデビューしたの。そう言う人たちをずっと引きずっていると重たくてね。別人に生まれ変わって心機一転、頑張ろうってさ。」

この話は重い。ストリップ劇場に通っていれば、嫌でも常連さんたちからその手の話の断片は耳に自然と入って来るのもである。しかし、こんなにリアリティーを持って踊り子自身の口から聞かされると、思わず両手で耳をふさぎたくなる。ただ一つ言える事は、お客も踊り子も生きる事に一生懸命だと言う事だ。ミナミは話を続ける。

「ストリップってさ、きっとお客さんも踊り子も仮面をつけて一緒に踊る仮面舞踏会なんだよね。それぞれの立場や事情は仮面の下に隠して、良い夢だけを拾い集めてこの時間だけをただ楽しむためだけにここにいる。劇場を出ればみんなまた現実の世界で、ギリギリの生活が待っている。そうだね、ストリップ劇場はお客さんと踊り子が現実を逃避して、手を取り合って踊る仮面舞踏会なんだ。」

まるで自分自身に言い聞かせるように、ミナミは話した。何か気づきがあったのであろうか。ミナミとの出会いは不思議な出会いになった。ストリップはお客と踊り子の仮面舞踏会か。面白い事を言うもんだな。さすがに夜も更けて来た。ミナミと私はお互いに楽しかったと言いながらイタリアンレストランを出て、それぞれの帰路についた。

私にとっては何だか特別な夜になった。ただし、今夜の事は門外不出、観劇日記に書く事は無いだろう。踊り子はステージの上での事がすべてである。

(2020.09.04)

※この物語に登場する個人・団体等は架空のものであり、実在するものとは一切関係ありません

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