屋根裏談話室

#23 仮面舞踏会(4)

ミナミは沈黙する私を見ながらワインを飲み干した。あまり長く沈黙していると、それはそれで気まずい気がしたので「そうか、手紙の事については良く分かったよ。それにしても事務所の方針変更で引退するのは仕方のない事だし、私の事でそこまで気を使ってくれなくても良かったのにな。優ねーさんはホントに名前の通り、優しい人だな。」するとミナミは「ほら、やっぱり優ねーさんにホレてるんでしょ。」と突っ込んで来た。

何か誘導尋問めいた言い方なので、ミナミの誘導に何か隠されているような気がして乗ってみる。「だとしたら、なんだって言うのよ?」とても笑いをこらえきれないと言うような顔して「やっぱりホレてたんじゃん。でもその愛は実らないからね。優ねーさんの事はあきらめなさい。」したり顔してミナミは続ける。「優ねーさん引退のホントの理由、教えてあげようか。優ねーさんには長い事付き合っている彼氏がいて、その彼氏と結婚するから引退する事になったの。」

「彼氏と結婚するから引退? おめでたい話じゃないか。常連さんたちから聞いた話だと、彼女はストリップの踊り子を引退してからソープ嬢になってて、お店に出ている事を確認したって言う奴がいる。私にも事務所の方針変更で、ストリップの踊り子を辞める事になったって聞いてるんだが?」ミナミはちょっとムッ!っとしながら言う。

「誰がそんな事言ってるの? ガセネタよ。大体さ、優ねーさんは、そもそも吉原のソープで働いてる時にスカウトされてAV女優になったんだよ? それからAVの仕事が無い時にストリップに出ていたの。本業はAV女優だよ。で、彼氏と結婚するからストリップもやめる事になった。だから今更ソープ嬢になんかなる訳ないじゃん! それに関しては事務所がどうのとか全く関係ない。」

なるほど、それが偽りなき事の詳細って訳か。まったく誰だよ、ソープに行ったら優ねーさんの写真がカタログに載ってたとか言ってた奴は! 人騒がせな。私はパスタの皿に乗っていたプチトマトをフォークでブッスリと刺して口に入れた。どうした事かミナミも私と同じように、パスタの皿のプチトマトをフォークでブッスリと刺して口に入れ、モグモグと食べた。そして二人して同じ事をしたのが何故か可笑しくて、目を見合わせて笑った。

「何だか面白い。チョッキーはどうなの? なんか急に現実を目の前に突きつけられて傷ついた?」と言うので、「いや、優ねーさん引退の理由が結婚するからって事なら、踊り子さんには良くある話だし、彼氏がいたって事も何も不思議じゃない。むしろそれならおめでとうって言ってあげたいな。」今度はミナミの方が不思議そうな顔して言う。「チョッキーが寛大なのか、優ねーさんの方が自意識過剰だったのか。どうなんだろ?」

「どっちも正解かな。そもそも私は数いるストリップ客の中の一人だし、いくら踊り子さんの事が好きになったと言っても、恋人になったり結婚できるなんて思ってないよ。」と言うと、ミナミは「つまんないなぁ、チョッキーが優ねーさんに彼氏がいた事が分かって、もっとショックを受けて泣いちゃうかもって思ってたのに。割と冷静なんだね。」まぁ、ちょっとはショックだけど、ある意味想定内だから。

「あのさぁ、さっき私のステージの時、私の事全然見ていなかったでしょ? なんかボーっとしていて。優ねーさんからあなたの事聞いた話とはだいぶ違うなって。だから、こら! 目を覚まして私のステージを見なさい! って、ウィンクまでして挑発してたのに気が付いた? それとも私では優ねーさんの足元にも及ばない?」

何のことだ? 良く分からないが話の方向がミナミの事に切り替わって来たぞ。「いや? 一応ちゃんと見てたよ?」するとミナミが憮然として言う。「うそ! 盆の上から見てると半分寝てた感じだった。」なんだこれは? こう言う展開になるとは思ってなかったな。もしかして、ミナミは優ねーさんに嫉妬してるのか? するとミナミはさらに語気を強めてこう言った。

「そう、それならさっき見た私のステージについて感想を言いなさい! 」

どうしてこうなる・・・

(2020.09.02)

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