屋根裏談話室

#21 仮面舞踏会(2)

「ちょっと! そこの人!」と不意に背中越しに呼び止められ、新進気鋭のアイドル踊り子・ミナミと二人で食事に行く事になった。初対面ではないにしろ、話すらした事も無い女の子と二人きりで晩御飯と言っても、果たして会話は成立するのかさすがに緊張して来た。と言うよりも何故私を指名して来たのか、何の用事があるのかさっぱり分からない。

私は仕方なくミナミの後ろからトボトボと歩いて行く。「ここよ、このお店に入りましょ。」イニシアチヴは完全にミナミに握られていた。「いらっしゃいませ。」と店のボーイが愛想よく言う。二人はそのボーイに案内されて、お二人様用の席に座った。

・・・それにしても、こんなきれいな人と二人、差し向かいで食事するとか、さすがに緊張するな。ボーイさんがメニューを広げて私とミナミに差し出す。イタリアンレストランか。踊り子って言うのはいい物食ってるんだな。まぁサイゼリアみたいなもんだろう。ミナミがワインを指定して注文している。イタリアンワインなんて私にはまったく分からないので、すべてミナミにお任せである。

すべての注文が終わるとボーイはこのテーブルから去って行った。ついにミナミと私の二人だけになった。こう言う雰囲気はどうも苦手だ。「だいぶ慣れているようだけど、この店には良く来るの?」するとミナミは「めったに来ないよ。お高いお店だから。スペシャルゲストがいる時だけかな。」お、お高いお店? やばいな、さっき劇場でお金使って来たばっかしだし、こういう展開になるとは全く考えてなかったから。まいったな、JCBカードなら使えるだろう。

それにスペシャルゲストがいる時だけと言ってたが、それが私なのか? どう言う事なのだろう。「あのぅ、オレがスペシャルゲストなの?」と聞いてみると「そうでしょ? 他に誰がいるのよ。」とミナミが笑いながら言う。「なんて言うか、何だか分からない事ばかりなんだけど。」するとミナミは「乾杯してから話そう。」と言ってからずっと私の顔を見ている。料理とワインボトルを持ってボーイが来た。

テーブルに料理を並べ、ワインをグラスに注ぐとボーイは去って行く。「さぁ、じゃぁともかく乾杯しようか。」とミナミはワイングラスをつまみ上げて「では、私とあなたの出会いを祝して、乾杯!」と言って私の持ってるワイングラスにカチン! とグラスを当てた。そしてステージの時とは違い、薄いピンクの口紅が塗られた唇をグラスのふちに押し当ててワインを飲み干した。私も何だか良く分からないが遅れをとらないようにワインを飲み干した。

「優ねーさんに狂った男さん、まだお名前を聞いていなかったわ。」
「優ねーさんに狂った男さんはやめてよ。万沢直樹と申します。仲間からはチョッキーって呼ばれてます。直樹だからチョッキー。」

ミナミは声を立てて笑う。「万沢? 萬田さん? あはは、チョッキーって言うのもいいね。」と楽しそうだ。萬田はんと言えばミナミの帝王じゃ。「じゃぁ、万沢だと長くて呼びにくいからチョッキーって呼ぶ事にする。チョッキー、優ねーさんから手紙もらったでしょ? 何が書いてあった?」またしても唐突な事を言って来た。

「手紙って最後にもらったヤツ? 内容なんて言えないよ。」するとミナミは「そんなら私が言ってあげる。お別れの手紙でしょ? かぐや姫になって月へ行くから、もう会えないよ見たいな事だよね。」な、何でミナミが知っているんだ。確かにそんなような事が書いてあった。正確には偶然どこかで会ったとしても、その時私はあなたの知らない人だから声はかけないで下さい。さようなら。って事だった。

「驚いてる(笑)。かぐや姫の所は、優ねーさんがどういう風に書いたらあの人を傷つけないでお別れできるかな? って私に聞いて来たから、こう書けばいいんじゃないですかって、教えてあげたのよ。」

「なんだってー! ってかどう言う事? 二人で書いた手紙って事? そんなのってあり得るのか? 言ってる意味が分からない。私の事を二人してもてあそんだって事? 」

「怒らない、怒らない。正反対だよ。チョッキーは優ねーさんの事、どう思ってるの? 好き? 愛してる? 踊り子として? それとも女として見てるの? 」

「いや、それは・・・ 実力のある踊り子だし、才能が開花した所なのに引退は残念だなと。もっと彼女のステージをずっと見て、応援して行きたかったなって。」

「それだけ? 優ねーさんにホレてたって、もっと正直に言えばいいのに。」

何だか全然話が見えて来ない。

(2020.08.31)

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