屋根裏談話室

#20 仮面舞踏会(1)

相変わらず私はストリップ劇場にいた。特にお目当ての踊り子さんと言うのはいなかったが、私はちょうどストリップのホームページ開設したばかりだった。そのホームページと言うのはストリップショーを見にって、ステージの感想やその日の様子などを「観劇日記」としてコンテンツにしている、いわゆるレポートサイトである。

まだ開設してから日が浅いので、私のホームページは常連さんの人たちが見に来てくれるくらいのもので、古くからストリップサイトを運営している常連さんのようにたくさんの人が見ているホームページの足元にも及ばない弱小サイトだった。ストリップサイトの起源は意外に古く、インターネットが主流になる前のパソコン通信の時代にさかのぼる。

NIFTY Serve(ニフティサーブ)と言うパソコン通信があった。その中の「フォーラム」と言うカテゴリーがあり、その「フォーラム」の中でパソコンに詳しい劇場の常連さんたちが「ストリップフォーラム」を立ち上げて、そこでストリップに行っている人同士で交流を図っていたと言うのが、ストリップサイトの前身である。意外にもストリップとIT は相性が良いのか、パソコン通信からインターネットに通信手段が変わって、さらにストリップファンの交流は広がって行った。

その時代はまだ電話回線をモデムと言う機器に接続し、インターネットにつないでいた時代だし、ホームページなどと言うものは誰にでも作れると言う代物ではなかったし、パソコン自体高価な機器であったので、インターネットをやっている(閲覧等)出来る人も少ないインターネット黎明期である。

さて、今週も劇場でショーを楽しんでいると、踊り子のメンバーの中に見た事ある人がいた。それは「アイドル看板踊り子」の彼女が、引退となってしまった週に一緒に出ていた新進気鋭のデビュー間もないアイドル踊り子「ミナミ」である。「アイドル看板踊り子」の彼女の人気を横からかっさらって行ったのが、この「ミナミ」なのだ。

ミナミのステージをよくよく見ていると、アイドルと呼ぶのにふさわしい軽快でフレッシュな印象で、踊っている時の笑顔がとても可愛い。「アイドル看板踊り子」の彼女がストイックでマニアックなステージを踊っているのと同じ週に、この「新進気鋭の新人アイドル・ミナミ」が出ていたのだから、優姐さんの人気を持って行かれるのも納得できると言うものだ。基本的にお客さんは、明るく楽しいダンスステージを好むものである。

なるほどなぁ・・・ と考え事をしながら、心ここにあらず、と言う心持でステージを見ていた時、ベットショーを踊ってるミナミが盆に寝ころびながら、私の顔を見ているような気がした。と言うか、ウィンクをして私にアイコンタクトをして来た。な、何だ? 以前見かけた顔なので、あいさつ代わりのウィンクなのだろうか。でも近くで見るとホントに可愛い顔しているな。少女のあどけなさと、大人の女性の美しさが微妙なバランスを保っている、とても良い雰囲気を持つ。

この微笑でウィンクされれば、男なら誰でも心揺さぶられるだろう。まあるいパッチリとした目、それに合わせた緩やかなカーブを描く眉、赤いルージュの艶やかなくちびるに透けるようなハリのある白い肌。肩にかかる絹糸のような長い黒髪。あまりにも美しすぎて、まるで催眠術にでもかかったように見とれてしまい、どんどんミナミの世界へと引き込まれてしまうような錯覚におちいる。

ミナミはダンスショーのみで、ポラロイドショーはやらないようだ。いわゆるソロダンスの踊り子であった。なので話す機会は無い。本日すべてのショーが終わったので、劇場から引き揚げようと外へ出た。帰宅した後、今日見た踊り子さんたちのショーの様子を観劇日記として書かなければならない。私のホームページを更新するためだ。

駅へ向かおうと歩き出した時に、不意に女の声がした。「ちょっと! そこの人!」えっ? 私のことか? と振り返ると、そこには私服に着替えたミナミが立っていた。何だろう、何か忘れものでもしたかな。「えっ、オレですか? 」と言うと「そう! ちょっと待って!」と呼び止められる。「あのさ、少し時間ある?」と言う。「時間って、なんで?」と聞き返すと「これからご飯食べに行くんだけど、もしよかったら一緒に行ってもらえるかな?」

「ご飯ですか? 別に構わないですけど、なんでオレと?」それはそうだろ、初対面ではないけど話もした事ないし、誘われる理由が分からない。するとそこへガヤガヤと4~5人の常連さんたちが劇場から出て来た。その中の一人がミナミを見つけて大きな声で言う。「ミナミちゃん、ご飯もう食べたの? まだならみんなで焼き肉食いに行こうよ。」するとミナミはチッ!と小さく舌打ちをして「ありがとう。でも今夜はちょっと用事があるから、また今度誘ってね。」そう言われた常連さんたちはスゴスゴと帰って行った。

これって・・・ どう言う展開だ? とあっけにとられていると、ミナミは微笑しながら言う。「お待たせ。じゃ、ご飯行こうか。」メシを食いに行くなら、さっきの常連さんたちと一緒にみんなでにぎやかに食べに行けばいいのに、何でみんなを返したんだろう? いったい私に何が待ち受けているのだろうか・・・

(2020.08.30)

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