屋根裏談話室オーディオブック2

第二章、再出演

前回公演の劇場ですっかり「アイドル看板スター」となった彼女が、三か月振りに前回と同じこの劇場での再出演が決まった。今回は7月の「七夕公演」になる。ストリップの常連さんをはじめ、潜在的なお客さんたちの間では「またあの時の「アイドル踊り子」が来演するぞ、楽しみだなぁ。」と話題沸騰、空前絶後の前評判が立っている。もちろん「前回公演」でのあの人気ぶりと評判の高さを思い返せば当然な事と言える。

「さてまたあの子にひと稼ぎしてもらおう。何しろあの子は今週ウチのアイドル看板スターだものな。大入り間違いなしだ。」と劇場の社長も大いに期待している。そういう噂話は当然彼女の耳にも届いているはずだ。その彼女はと言えば、デビューしてから三年目になる。ただし、彼女は毎週どこかのストリップ劇場でステージに立っている訳ではない。彼女のメインの仕事は「AV女優」である。スケジュール的に閑散期があると、その合間にストリップの踊り子としてステージに立つのだ。

踊り子としてのデビュー作品、前回の評判を呼んだ作品、そして今回期待の作品で「さんさくひんめ」となる。デビュー作品では新人踊り子。まぁちょっとカワイイ踊り子がデビューしたなと言ったくらいの評価だったそうな。しかし「にさくひんめ」となるステージはご承知の通りの大ブレーク。彼女目当てのお客で劇場は連日超満員となり「アイドル看板スター」の名を欲しいままにした。そして今回の再来演では初めから「看板スター踊り子」と言う立場で劇場の舞台に立つ事になる。

ここでちょっとストリップの踊り子が演ずるステージ作品、出し物について知っておこう。基本的に踊り子は自分が踊る演目は、自分で自由に創作した作品を踊る。自分で振付など考えられない場合には、ステージで踊る時に使う曲と、簡単なイメージなどを振付の先生に頼んでワンステージ分の作品を作ってもらう。

振付の先生は「先輩踊り子」であったり、専門の振付師だったりするが、高名な振付師の先生にレッスンと言う形で依頼すると、90分で5万円ほどのレッスン代がかかるそうだ。ただし、レッスンは「カメラ撮影OK」で、それをレッスン後にビデオで復習しながら覚えるそうだ。しかし90分でワンステージの振付を覚えられない踊り子はプロとは言えないと言われている。

ワンステージの「もちじかん」は20分前後、オープニングダンス、セカンドダンス、ベッドへのつなぎ、ベッドショウとそこからの立ち上がり。曲数で言うと通常、4曲から5曲で構成され、その時の状況により曲を編集して「もちじかん」に合わせると言うのが基本的なストリップのショー構成である。

さて、「アイドル看板踊り子」の彼女がいよいよステージに立つ。ショウが始まる前から観客たちは胸を「トキめかせて」興奮している。

暗転しているステージに耳をつんざく轟音と、照明による激しい稲光、彼女は気を失って倒れている所からショウは始まった。淡い照明の中、彼女は意識を取り戻したのかゆっくりと顔を上げ、体を起こした。

ショウのオープニングから、まるで演劇のようなスタンスで始まった彼女のステージを凝視していたお客たちは、ただただステージ上の彼女の様子を見守っている。出演順は4番目、「トリ」ではないが、まるで今日のラストショウのような濃い演目に、誰もが当惑している。彼女は黙々と演技を進めて行く。

大振袖のそこかしこにスパンコールが散りばめられた豪華な衣装、結い上げた髪に「カンザシ」を差し、重厚な演技と振付で踊る。少なくとも前回大ブレークしたアイドル踊り子のステージとは思えない異質な世界観である。俯瞰して考えてみるとその作品が七夕の週で、織姫の表現をしていると言う事が分かる。一年に一度、七月七日の「いちにち」だけ牽牛との逢瀬を許される二人の物語を演じていると理解するのに時間はかからなかった。

牽牛と会える喜びよりも、再び時が来れば離れ離れになる織姫の悲しみの心の方にスポットを宛ててストーリーを描いている深い読みが必要な作品である。それゆえベッドショウでの濃厚な交わりのシーンでは切なく狂おしいほどの愛の営みが胸にしみる。

ベッドショウで盆が回って来た時、彼女と目が合った。「びしょう」して「アイコンタクト」を送って来た事が私にも良く分かった。が、彼女の眼が何を私に伝えようとしていたのか、その時点では分からなかった。織姫と牽牛が織りなす愛の世界を客席から見守るしかなかった。ストーリー物と呼ばれる強いメッセージ性のある作品を彼女が今回演じているのには何か理由があるのであろうか。

彼女のショウが終わり、ざわつく客席。「とても良いショウだったが、ちょっとイメージが違うかな? 」、「彼女はアイドルから脱皮して本物の踊り子になった。」など、様々な言葉がそこかしこから聞こえて来た。アイドル看板踊り子と言う触れ込みで劇場に足を運んだ人たちからすれば、当てが外れた事は否めない。屈託のない笑顔に軽快なステップを踏み、それに合わせて誰もが手拍子をしながら楽しく盛り上がりたいと思っていたはずである。そう言うものが彼女の持ち味だと誰もが思っていたと思う。

それに彼女自身もその持ち味を生かした作品の方が、たくさんの人に受け入れられると言うのは知っている事と思う。その週、彼女を目当てに劇場へ足を運ぶお客は、前回と異なりだいぶ少なかった。むしろ彼女よりも新進気鋭のアイドル踊り子を目当てに、大勢のお客が詰めかける事になったのだった。