屋根裏談話室

#11 1996年 浅草ロック座の夏、再び(中編)

いやはや、浅草寺のおみくじで大凶を引き、まるでそのおみくじの大凶によるものかのような、とんでもないハプニング「缶コーラ略奪事件」に巻き込まれた。しかしまぁ、缶コーラ代は交番のおまわりさんにより弁償してもらえたので、俯瞰してみれば実害はなかったとも言える。考えようによっては面白いハプニングだったな。

ともあれ、そろそろお時間ですはっけよい。そう、浅草ロック座の夏、再び! 頭の中を切り替えて今日のストリップショーのステージに思いをはせる。不思議なもので、去年は人目を気にして浅草ロック座の前を行ったり来たり、戦略を立てて浅草ロック座に入るタイミングをうかがい、清水の舞台から飛び降りる気持ちで建物に入って行った。

ところが今年は何の躊躇もなく、入口辺りに貼ってある今日出演している踊り子さんの写真をじっくり見る余裕がある。人って一度経験してしまえば変わるものだね。今年も雅麗華さんや蘭錦さんが出演している。ふと見ると「村上麗奈」の写真もある! えっ? 村上麗奈さんストリップの踊り子やってるの? しかも今日出る? マジか!

実を言うと私はこの「村上麗奈」さん、テレビの深夜番組で良く出ていたし、雑誌のグラビアでも良く見ているし、要はファンだったのだよ。でもストリップの踊り子をやっているなんて全然知らなかった。待てよ? 出演って事は今日、目の前で生「村上麗奈」さんが見られるって事だ。だとすれば、何が何でも「かぶりつき」に席を取らなくちゃ! イス取りゲームに勝利して盆の真正面を奪取しなくてはなるまい。近くで見たい!

いそいそと階段を上り、入場券を買い、無料コーヒー券ももらい、カウンターのイスに座ってモーニングサービスのコーヒーをすすった。私の隣に座ってる人は、軽食のトーストセットを注文している。慣れてるな、この人・・・

その人はどうやらお仲間と来ているようで、話がはずんでいるのでどんな話をしているのか聞き耳を立ててみた。やはり雅麗華さんのファンみたいだった。すると話の中に耳慣れない言葉が出て来たので、ちょっと話に割り込んでみた。「あの、先ほど会長公演と言うのが聞こえて来たんですけど、会長公演って何ですか?」親切な事にその人は焼きあがったトーストにマーガリンを塗りながら教えてくれた。

「アンタ、ロック座は初めて? 去年の八月にも来た? へぇ~、狙って来た訳でもなく夏休みだからたまたま来たのか。あのな、浅草ロック座は八月の公演は会長公演って言って、ロック座の会長がみずからショーの企画・演出、プロデュースをやる訳よ。知ってる? 「斎藤智恵子会長」知る訳ないか、まだ駆け出しのストリップ初心者だもんな。浅草ロック座はよ、一回廃館したんだけど、それを斎藤会長が買い取って復活させて今あるのがこのロック座だよ。」

ほ~う・・・ すごい人って訳か。その斎藤会長と言う人が企画・演出プロデュースまですべて行っている期間限定の公演がつまり「会長公演」と呼ばれている訳ね。だから特別な公演で凝りに凝った内容で見るお客にとっても特別な公演って事になるのか。

って言う事は、ストリップって八月だけやってる訳ではないのか。トーストのおじさんにそう尋ねたら、思いっきり笑われた。通年を通して毎日やってるし、浅草ロック座は一ヶ月単位で新しい公演内容に変わる。他の劇場では、10日間単位で踊り子が入れ替わるから一ヶ月は3週間になる。浅草ロック座は他の劇場と違って、日本で唯一レビューショー形式のショーが見られる劇場で、他の劇場は出演する踊り子がそれぞれ思い思いのショーを作って踊る。

すごいストリップの基礎知識を教えてくれた。ストリップって、そう言う構成で出来てるのか。って言うか他の劇場って・・・あ、山梨の石和みたいなストリップ小屋のことか。なるほどな。それともう一つ重要な事をトーストのおじさんは教えてくれた。それは「ストリップの世界ってのは、義理と人情と思いやりで成り立っている世界だから、アンタもお気に入りの踊り子が出来たら花束の一つも買ってきてプレゼントすると踊り子さんに喜ばれるぜ。ここへ来る途中に花屋があったろう、あそこなら店員の方が良く分かってるから金額だけ言えばキレイな花束作ってくれるから、花の事なんて知らなくても大丈夫だ。」

踊り子に花束のプレゼントか、花屋なんて行った事ないし、花屋の店員に恥ずかしくて浅草ロック座用の花束下さいなんて、とても言えないだろうな。

(2020.08.15)

#10 1996年 浅草ロック座の夏、再び(前編)
#11 1996年 浅草ロック座の夏、再び(中編)
#12 1996年 浅草ロック座の夏、再び(後編)
#13 ここまでの編集後記