屋根裏談話室

#17 アイドル看板スター踊り子 (4)

楽日も4回目が終わり終演となった。楽日の劇場と言うのは踊り子と荷物でごった返している。踊り子の衣装ケースや生活用品など、宅配屋が搬出や搬入で忙しく出入りしている中、移動の踊り子たちも次の劇場へ行くため、劇場関係者や仲間の踊り子たちに挨拶を交わしたり、また明日からの出演のため早めに乗り込んで来る踊り子もいる。およそ劇場の楽日の終演後の風景と言うのはそのようなものである。

そんな中でわざわざ私を呼び止めて、感想文の返信を持って来てくれた彼女にお礼を言いたかった。しかしこの楽日のあわただしい中で、いつの間に書いたのだろうか。ともかく早く読みたいと思い私の車が止めてある駐車場へと急いで歩いた。

「手紙」

「まずは私のステージの感想文だなんて無理を言ってごめんなさい。色々なお客さんたちからもステージの感想は聞きましたが、あなたほど深く私の意図するところを読み取ってくれた人はいませんでした。大体の人は織姫と牽牛の七夕のお話をなぞった感想ばかりです。リアリティーのある織姫の心情を読み解いてくれてありがとう。あのステージでの織姫は、私そのものなんです。織姫と自分の事を重ね合わせて演じていました。

私はストリップが好きです。お客様の前で自分を表現できて、お客さんが私のステージを見て拍手をしてくれたり、共感してくれたり、ドン引きしたり(笑) 自分がやっている事にリアルタイムで反応してくれる。あなたが以前に言ってたように、お客さんがドン引きしてる時でも踊り続けなければならない。そんな時はお客さんの視線が飛んで来る針のように、全身に突き刺さる気持ちになります。

でもそれがストリップと言うもの。ステージに立つと言う事。だからこそ真剣になれるし、自分とも向き合えるのです。前回のステージでアイドル看板踊り子と呼ばれ、とても楽しく踊る事が出来ました。あれはあれでいいと思いましたが、もっと地に足を付けて、踊り子として本気でストリップに取り組みたいと思うようになり、マニアックな濃い作品だと一般受けしない事は百も承知の上で、今回の織姫にチャレンジしました。

踊り子として今後もお客様を楽しませつつ、自己表現もして行きたいと腹をくくったからです。しかしそんな時に私の所属する事務所から言われたのです。ストリップは大して利益上がらないからもうこれで終了にすると。あなたもご存じと思いますが、私の所属する事務所はAVがメインの事務所です。その事務所に所属するタレントとしては、事務所の方針に逆らう事は契約上できません。

とても残念なお話になってしまいますが、今週の出演を最後に、私はストリップから引退する事になりました。やっと自分のやりたい事が見つかったと思ったので、本当に残念です。織姫は私。ストリップは牽牛。無理やり引き裂かれてしまう運命。それを表現したステージでした。暗闇の中で光る猫の目のような視線。私があなたに言った言葉ですが、私は嬉しかったんです。真剣な眼差しで私のステージを見てくれる人に出会えて。

でもこれでお別れです。私はかぐや姫となり、月の世界へ帰らなければなりません。これまで本当にありがとうございました。そして一つだけあなたにお願いがあります。もし、今後偶然どこかの街で私を見かけたとしても声はかけないで下さい。そこで見かけた人は、あなたが知っている私ではありません。かぐや姫は月の世界の人ですから、あなたの事を傷つけてしまうかも知れません。

ご厚情感謝いたします。さようなら、アイドル看板踊り子より。」

私にとって彼女からの手紙の内容は、青天のへきれきと言うべきものであった。今週見たあの作品で引退? 他のお客さんたちや常連さんでもそんな話は誰も言わなかったし、聞かなかった。多分誰もその事を知らないのであろう。それにしても何と言う事か。確かに事務所の方針と言う事なら、いちタレントがどうこう言えるものでは無いにしろ、あまりにも急な話ではないか。

せっかく踊り子として腹をくくってやって行こうと決めた所なのに。彼女にはストリップの創作ステージの才能があるし、表現力も素晴らしいものがる。言ってみれば今後のストリップ界を引っ張っていけるだけの実力がある! それなのに事務所の都合でハイ終了って。ストリップのステージに立つって、そんな簡単なものじゃない。あの舞台の上で踊るってそんな簡単な事じゃない。あれだけ多くのお客さんたちを熱狂させるって、そんな簡単な事じゃない!

真夜中の駐車場、車のルームランプに照らして読んだ彼女からの手紙。私は胸が張り裂けそうだった。これからを期待できる優れた踊り子なのになんてこった。劇場の社長は知っていたのかな、いや、そこは考えていなかっただろうな。もしかしたら、彼女の事務所の社長だかマネージャーだか知らないけど、今週彼女の様子を見に来て劇場の社長と話をしてて、彼女目当てのお客が減ったとか、そんな話を事務所の人間が聞いて、ストリップよりAVの方が儲かりそうだ終了みたいな?

だとすると彼女の引退は今週急に決まった事になる。せめて引退公演くらいやってからでも良かったんじゃねぇのか。私が車の中でほざいてみても何が変わるって事も無いが、無念だ。こんな事になるならもっと劇場に通って、彼女のステージを見ればよかった。仕事の都合なんて言ってないで、なりふり構わず彼女の思いの込められたステージをもっと見ればよかった。

そうか! 彼女はストリップ終了と言う話を聞かされていて、だから私に感想文をなどと言ったのかも知れない。そうすれば私が感想文を持って、もう一度観劇に来ると考えたんだ。なぜならば今週で引退する事になるから、最後のステージ、最後の作品を私に見てもらいたかった。何とも切ない話だ。

(2020.08.27)

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