屋根裏談話室

#16 アイドル看板スター踊り子 (3)

彼女のダンスショーが終わりポラタイムが始まった。幾人目かのお客が撮影した後、私の番になった。私は彼女の所へ行き、ポーズを指定しながら彼女の様子を伺う。カメラのファインダーを通して見た彼女は前回と同様、屈託のない満面の笑みでポーズをとっている。相変わらず可愛いアイドル踊り子以外の何者でもない。そこで手短に聞いてみた。「さっき、ベッドショーの時に何か言いたそうな顔してたけど?」すると彼女は大笑いしながら言った。「い~男がいるな~と思ってさ。」

見事な切り替えしである。それゆえに何か意味深な気がした。ポラショーの時は他のお客も見てるから、たとえ何か言いたかったとしてもそこで話すのは無理なのである。私は自分の席へ戻った。彼女のポラの販売数は結構伸びており、アイドル看板踊り子にふさわしい売れ行きであった。

そしてフィナーレが始まると、先ほど撮ったポラを持って彼女が私の所にやって来た。それと一緒にまた紙の封筒も渡された。それを受け取るとフィナーレ終了を待ってロビーへ行った。ポラ写真はともかく、紙の封筒の方が気になる。やはり手紙が入っている。

「お久しぶりです。お元気でしたか? もしかしたらあなたも今日の私のステージを見て戸惑ったかな?(笑) あなたの眼から見た率直な感想をお聞きしたいです。込み入った話はあなたの感想を聞いてからお話しします。」

やはり彼女に何か起きているのか、込み入った話って何だろうか。ともかく今日見た彼女のステージの感想文を書かないと何も始まらないようである。今日はこれで一旦引き上げて、家で落ち着いて感想文を書く事にする。ポラロイド写真の中で、屈託のないキラキラとした笑顔の向こうに一体何が隠されているのだろうか。

【感想文】

劇場から帰宅後の深夜、私は今日見て来た彼女のステージ作品について率直な感想を便せんに書き記した。おおむね次のような事である。ストーリー物の創作作品については、劇場の七夕公演と言う事なので、おそらく「織姫と牽牛のお話」をモチーフに創作された事はショーが進むにつれて確信を持った。しかし、そのストーリーの中で誰もが知っている「織姫と牽牛の話」だけではなく、きっと織姫の牽牛に対する現実的な女心を描きたかったのではないかと感じた。なぜならば、ベッドショーを見ていれば良く分かる。

多分、普通にあの物語を表現したいなら、一年に一度だけれど出会えた喜びにフォーカスして物語を展開する所だが、あなたがフォーカスしたのは織姫が牽牛と出会えた喜びではなく、また時が来れば牽牛と離れ離れになってしまう悲しさ、未練の方へ物語の焦点を向けていた。愛し合ってる二人ならば、このままずっと一緒にいつまでもいたいと願うだろう。現実はいつも残酷だ。何度再会出来たとしても、たった一日で引き裂かれる運命(さだめ)である。

それならばいっそ牽牛を殺して自分も死に、未来永劫、永遠の愛をと織姫は願う・・・ しかし、そこに踏み込めない織姫の迷い、苦しみ。そう言う所を演じていたのではないかと私には思えた。ストーリーとしてとても面白い切り口だと思った。

それにしても「アイドル看板踊り子」のあなたが、ガラリと趣を変えこの作品に挑んだ事には正直びっくりしましたよ。前回のアイドル路線のステージをやればお客も劇場の社長も大喜びしただろうに。今回のステージはベテラン踊り子が演じるような濃厚なステージだった。でもそれを分かっていて、あえてあの作品を引っ提げて登場したと言うのには、きっとあなたに思う所があって出して来たとしか私には思えません。

サクっと感想文をしたためるつもりだったのに、明け方までかかってしまった。
ともかく楽日までにこの感想文を届けなければ・・・

使命感のようなものを感じながら私は仕事の都合を無理やりつけて楽日の劇場へ行き、彼女に感想文を届ける事が出来た。踊り子にとって楽日と言うのは移動日であり、自分の四回目のステージが終わった順に劇場から去って行くので、四回目の回にはフィナーレは無いか、居残っている踊り子だけでフィナーレをやるのである。こんな日にたとへ感想文を彼女に渡したとしても返信などあるはずもない。

ところが、終演後に彼女は帰ろうとしている私をロビーで呼び止めた。「すみません、時間が無くて。」そう言って私に紙の封筒を手渡し「ありがとうね。」と手を振りながら楽屋へ戻って行った。私は彼女と初めて同じ床の上で向き合ったが、私服の彼女はごく普通の女の子であった。

(2020.08.26)

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